剣とチェンバロ

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 街道の四辻で、グレンは勘にまかせ、馬を北に向けた。駄目なら方角を変え、一晩中でも馬を走らせればいい。  青白く照らされた街道を、馬が疾走する。  勘は当たった。グレンの行く手に、馬が一頭。その上に、人影が二つ揺れている。  後ろから来る蹄の音に気付いたらしく、その馬がさっと早足になる。  グレンも馬の脇腹を蹴る。前との差はみるみる縮む。  横に並ぶ少し手前で、グレンは馬の足を緩めた。前方の馬も、観念したように常足(なみあし)に戻る。  馬上の二人は、長いローブを頭からすっぽりとかぶっている。彼らの顔は、グレンからは見て取れない。  だが、グレンはそれが誰であるか確信していた。 「……どちらへ行かれるのです?」 「やはり君は気が付いたか。グレン」  久しぶりに聞いた気がした。柔らかな春風の声。グレンの喉がぐっと詰まった。  後方の一人が、そっとローブを外して振り返った。  月明かりの下、すまなそうに微笑むバージル・レイドがいた。
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