剣とチェンバロ

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 二人の乗った馬が見えなくなると、グレンは荷役馬に(またが)った。 「お前は直轄農場から連れ出されたんだな。どこに隠れてた? 川原近くの洞窟か? さあ、帰ろう」  馬の首を軽く叩いたが、馬は佇んだまま動かない。 「お前も淋しいか」  もう一度首を叩くと、諦めたように馬はゆるゆると城へ戻り始めた。    悪魔に憑かれた領主とその奥方の死について、城下には様々な憶測が飛び交った。が、ジェイラスが兄を継いで善政を執り行うと、次第にそれはしぼんでいった。  トラモアとは、止まりかけた独楽(コマ)のような危うい緊張が続いたが、ジェイラスの代、戦には発展しなかった。この領地もトラモアも、やがてもっと大きな国に飲み込まれるが、それはずっと後の話だ。  もうひとつ、悪魔憑きの領主が死んで数年後、遠く辺境の古い屋敷にお抱えの楽士がいて、彼の奏でるチェンバロがたいそう美しいらしい、という噂が一度流れ、消えていった。  グレンはその楽士に心当たりがあったが、もちろん誰にも言わなかった。
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