剣とチェンバロ

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 あくる日の午前、城はひっそりと静かだった。  セアラはベッドに臥せったままらしい。  グレンは、なんとか気持ちを整えて地下牢へ入った。  奥の一番広い牢で、バージルは床に膝を抱えて座り、ぶつぶつと何か呟いている。その周りに、食い散らかされたパンとスープの跡。スープの汁でかさかさに汚れた口髭。  昨日の夕餉(ゆうげ)、給仕に「いい匂いだ。これは私が今日釣ったマスかな」と笑いかけた男は、ここにはいない。  グレンは晴れない気持ちのまま、中庭に出た。青天の下、近衛兵たちが模擬刀を手に、日課の鍛錬を行っている。どことなく皆、動きが鈍い。  今日は、鍛錬の時間を伸ばした方がいいかもしれない、と彼は考えた。頭を空にして、体を動かす時間を。  グレンは若い近衛兵を呼んだ。「ネイト。相手を」    二刻ほどして、目に入る汗を袖で拭いながら、グレンは中庭を出た。火照った体を冷やすように、涼しい秋の風に当たりながら正門へ歩く。  その先で、跳ね橋を下ろす重い鎖の音がした。  数頭の騎馬を従え、ひときわ大きな黒い馬に乗った甲冑姿の男が、グレンの前を通り過ぎていく。  慌てて(ひざまず)いた彼の名を、よく通る声が呼んだ。「グレン! 久しいな」  ジェイラス・レイド。辺境伯の騎士。バージルの弟。
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