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城下に特段変わったことは無く、夕闇に沈む城に向かってグレン達は細い坂を上った。
「……グレン様」彼らに気付いた門番が、跳ね橋を下げ始めた。門番はすがるように、もう一度呟いた。「ああ。グレン様」
跳ね橋がゆっくりと下りる。劇場の幕が開くように、尖塔の下で揺れる松明の群れを、グレンに見せていく。
「何だ?」グレンの首筋を悪寒が駆け上った。「馬を頼む」 鐙を外すのももどかしく馬から飛び降り、彼は走った。
尖塔の下では、数人の使用人が松明を片手に膝をつき、布切れで敷石をごしごしとこすっている。
その中の一人がうつむいたまま、かすれ声で告げた。
「グレン様。領主様が、窓から落ちました」
別の使用人が、傍らの木桶の水を流した。
ざあっという音は、水音か。
それとも自分の頭の中で響いた音か。
グレンはぼうっとその音を聞いた。
薄く赤い色が水に混じり、広がり、グレンの足元で止まった。
誰かが鼻水をすすった。「洗っております……領主様の血を……」
「なぜ、落ちた」
「分かりません。ジェイラス様の声で、わたしらみんな、外へ出ました。ジェイラス様が領主様を抱きかかえて、名前を呼んでいらっしゃいました。けれどもう、領主様は動きませんでした」
「なぜ領主様は尖塔にいたのだ」
「分かりません。お体は、礼拝堂に」
グレンは拳を握りしめ、明かりの漏れる礼拝堂を向いた。その背中に、涙混じりの声が追い打ちをかけた。
「奥方様も、お亡くなりに」
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