剣とチェンバロ

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 礼拝堂の一番前の椅子に、呆けたような顔でジェイラスとウェスリーが座っている。  祭壇の前に、二つの質素な棺。  手のひらに食い込む爪の痛みが、グレンを支えていた。彼は二人の後ろにそっと跪いた。「戻りました」  ウェスリーの声が、静寂の礼拝堂に反響した。 「ほんの少しの間の出来事だった。奥方様が、地下牢から領主様を連れ出した」  ……牢の番人は、一度は引き留めた。だが、そこから出してもよい、という許可証があった。ジェイラス様の署名付きの。奥方様が作ったのだろう。あのような目に遭っても、領主様を早く地下牢から連れ出したかったのだろう。  奥方様が領主様のからだに手を回して、階段を上って行った。  番人が見たそれが、二人の最後の姿だった。  なぜ二人は尖塔へ上がったのか。領主様が落ちたのは、自らか、それともはずみか。今となっては分からない。  そこで話を切ったウェスリーの後を、ジェイラスが継いだ。 「義姉上は、兄が殺した。斧で。尖塔の部屋で」  ぽたり、と音がした。  棺から血が滲んで、白い床に落ちた。  ジェイラスが膝をつき、その血を袖で拭きとった。丸まった背中が小刻みに震えている。  グレンは首元のロザリオを握りしめ立ち上がると、きびすを返し、大股で礼拝堂から出た。不敬の言葉が、喉をついて出そうになった。  神よ。なんて酷いことを。  尖塔の下の使用人たちは、すでに引き上げている。  グレンは、水に濡れた石の脇にしゃがみこんだ。その背後に、すっと人の気配がした。 「グレン様」 「ネイトか」 「はい」 「何を見た」 「はい。私が駆け付けたとき、ジェイラス様が領主様を抱いていました」  ネイトは、ぽつりぽつりと話し始めた。
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