目隠しの正義

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 ***  きっかけはきっと、些細なことだったに違いない。華やかな美人で、元々はクラスの中心人物だった瑛梨香と。地味で眼鏡、いつも教室の隅で本ばかり読んでいるような地味娘の私。接点なんて、同じクラスということ以外に何もなかったはずだ。――それでもきっと、彼女としては気に障ることがあったのだろう。いつの間にか、私のそばかすだらけの頬や、癖の強い髪を揶揄するような言葉を彼女から投げかけられることが多くなっていたのだった。  彼女はしょっちゅう、聞こえる場所で私の悪口を言った。基本はブスな見た目のことから、根暗な性格、はたまた運動音痴なことまで。特に、運動会では私がリレーで抜かれたせいでチームが負けてしまったことを散々詰られた。あんたと一緒のチームになると負け確なのがほんと嫌!なんて一体何回言われたことだろう。  暴力だとか、物を隠されたりしたわけではない。それでも、悪口にくわえてグループワークで当然のように無視されたり、仲間外れにされたりすれば私だって傷つくというものだ。  だから、ある日。教室のパソコンから、学校の裏掲示板にアクセスして悩みを書きこんでしまったのである。子供だった私は理解していなかった。学校関係者ばかりが見る裏掲示板というのが、実際どういう場所であったかなど。 『六年生です。クラスの女の子にいじめられています。悪口を言われたり、仲間外れにされたりするばかりでとても辛いです。どうすれば解決できると思いますか』  匿名とはいえ、小学校の生徒ばかりが見る場所だ。学年も明かしているし、ちょっと見ればすぐどのクラスの誰の話なのかわかったことだろう。私も名前を出さなければバレないと思い込んでいたがために、掲示板の住人に問われればついついいらぬことまで喋ってしまっていた。家にパソコンを持っている生徒、それからパソコン室でパソコンを触るのが大好きな生徒。そういう生徒達が一種、学校のストレスを発散するために集まる場所――私はそれを、まったく理解していなかったのである。  みんな、いじめ、という言葉には敏感だった。  すぐに、私をいじめる女の子への批判が殺到した。いじめっこ女子Oをみんなでやっつけてこらしめてやろう、という流れになるのは必然であったのかもしれない。彼等の多くは、自分達が正義の味方になるチャンスを虎視眈々と狙っていた者ばかりであったのである。 『よし、もういじめなんかしなくなるように、俺達でOを懲らしめてやろうぜ!』 『さんせー!』 『いいと思いまーす!』 『どんな風に恥をかかせてやるのがいいと思う?安価やろうぜ安価ー!!』  気づけば、私を置き去りにしてみんなが盛り上がっていた。当たり前だが、多くの少年少女達はもうOが誰なのかわかっていたのである。そして、書きこんだ生徒の中にはクラスメートもいて――掲示板で出された“仕返し”を、ここぞとばかりに実行したのだ。  例えば、教室に張り出されているみんなの自己紹介カード。彼女の自画像に落書きしてヒゲを生やす、とか。  彼女が教室に入ってきたタイミングで、粉をたっぷりつけた黒板消しを彼女の顔面にお見舞いする、とか。
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