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彼に言われた途端、体中が熱を帯びているのを感じた。それに加えて、体が怠くて重い。明らかに風邪を引いている。
一度体を起こそうとしたけど、力が入らなくて、再び倒れ込んでしまった。
「乃亜ちゃん、無理しないで。今日は寝ててよ」
「うーん、ごめん。そうさせてもらってもいいかな?」
「もちろんだよ。俺も今日は講義サボるから」
「ダメだよ。講義はちゃんと行かないと」
「いいんだよ。今日の講義は別に行かなくてもいいやつだからさ。それより、着替えて顔洗ってきたら? 部屋着持ってきてあげるから」
私のせいで彼が授業をサボるのは納得ができなかったけど、彼の指示通り顔を洗うことにした。彼の洗面台に常備してあったクレンジングオイルを使って、サクッと化粧を落とす。少しはサッパリできたけど、相変わらず体は鉛のように重い。
もう一度ベッドに横になると、同じタイミングで彼が部屋に入ってきた。私の家から、普段使っているパジャマを持ってきてくれたようだ。
「寛人君、ありがとね」
「いいんだよ。ところで、お腹は減ってない? いつもなら朝ご飯食べてる時間でしょ?」
時計の針は、朝八時を指していた。確かに、普段だったら朝ご飯を食べている時間だろう。私はパジャマに着替えながら、微妙に食欲があることに驚いていた。
「ちょっと、お腹空いたかも」
「了解。今何か作るから、横になってて」
昨日、あんな大喧嘩をしたのに、それについて触れることはない。私が風邪を引いたばっかりに、本題に入ることが難しくなってしまった。
ベッドに横たわった私は、僅かに黄ばんだ天井を見つめる。じーっと一点を見つめながら、いつその話を切り出そうか、機会を窺っていた。
キッチンで手際よく料理している彼を横目で見てみるけど、間違いなくこのタイミングでないことは確かだ。
とにかく、彼の作った手料理を食べ終わるまでは、何も言わないでおこうと思えた。
「はい、完成したよ。実家から鮭フレークが送られてきたんだ。それを使ったお茶漬けを作ったよ」
「うわぁ、美味しそうだね。ありがとう!」
ムクッと起き上がって、胃に優しそうな綺麗な彩のお茶漬けを口にした。市販のお茶漬けの素に、刻みネギと海苔をトッピングしている。何よりも鮭フレークの旨味が口全体に広がってきて、スルスルと食べ進めることができた。
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