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抱き締めるようにして女を持ち上げ、やっとのことで立たせるが、腰を抜かしているのか、足を怪我しているのか分からないが、全体重を陸斗に預けてくる。
「お、おっちゃん、後ろ、後ろぉ!!」
悲鳴に近い声で、女が陸斗に注意を呼びかけるのに応じ、女を抱き抱えたまま後ろを振り返る。
およそ100m程向こうに見える車の群れが、ゆっくりと上へ持ち上がって行く。
気付けば足元を流れる水が、足首より上まで競り上がっている。
このままでは波に飲まれるどころか、押し寄せる車に挟まれ、一貫の終わりだ。
(どうする、この女を抱えたまま動くのは無理だ・・捨てるか?)
一瞬頭に過ぎった考えを察知したのか、女が俺に一層強く抱き付いてきた。
「置いてかないで・・置いてかないでよう!」
女が陸斗の耳元で、大声を張り上げ泣き出す。
「そんな声出すぐらい元気なら自分で立ちやがれ!このままじゃ2人共死んじまうんだぞ!」
そんな言葉で立ち上がるほど、この女は出来が良くない。
いっその事、車の中に入ってやり過ごすかと、周りを見渡した時、2台先に青いFRP製の水槽を積んだ軽トラックが見えた。
「オイ!すぐそこの軽トラまで行くぞ!ほら少しは足動かせ!」
それでもまだ身を預けたまま動こうとしない女に舌打ちをし、引きずるように横歩きで軽トラックまでたどり着く。
その場に女を置き、軽トラックの荷台の周りを見回り確認をする。
「良し、良し!荷台とは接続されてないな。」
長さが2m弱幅1m半高さ1mほどの生け簀用の水槽だ。
「水槽の水は抜かれていてくれよ・・。」
水槽側面にある覗き窓から中の様子を見るが、真っ暗で確認できない。
「ほら!この水槽の上に昇るぞ、うまく行けば筏のように浮いてられるかもしれん。」
津波が来る方向では、波に乗った車同士がぶつかり合い、まるで色とりどりのブロックが一つの壁を形成し、こちらに向かってきているように見える。
「もう無理、もうこのまま死んじゃう!死んじゃうよぅ!」
泣き言しか出てこない女に苛立ちを覚えるが、言ってはられない。
「じゃかましい!そこに足かけろ!俺が下から押してやる!」
軽トラの荷台に足をかけさせ、下からケツを持ち上げ、荷台にまで乗せる。
「そっから水槽の上には、自分で乗れるだろ!」
反対側面に回り、もう一つある覗き窓を確認する。
その覗き窓は水槽の全高から3分の2ほどの高さに設けられていて、窓の丁度半分の位置に水面が揺らいでいた。
(これならなんとか浮くな、後できれば長い棒があれば・・)
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