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天辺を過ぎ閉店時間を迎えた。メインホールに本日の出勤ホスト全員が集められ、中央に立った店長より売上順位の発表が行われる。まずは最下位から。
「最下位、水輝! 0!」
このオリュンポスでは「指名」が絶対。例えヘルプに入ったとしてもお客様から指名されて入ったものでなければ売上として計上されることはない。例え、ヘルプに入ってこの上なく盛り上げて高いお酒を注文してくれても売上は、始めに指名された「ホスト」の売上として計上されてしまう。
今日の水輝は誰にも指名されることなく一日を終わったために売上0と言う結果に終わっているのだった。店長は仏頂面であった。
「水輝? 営業かけてるのか?」
「は、はい……」
「メールとかSNSとか色々とあるだろ? もう少し頑張れよ? お前、ここに来て結構経つだろ? 誰も指名がないってやる気がないとしか思えないぞ?」
「す…… すいません」
店長は次々と順位を発表していく、正直なところ、三位までの発表までは変動こそあれ、大きな変化はない。
「二位、海王! 150万! 流石だな!」
店長は海王の肩に力強く何度も叩くように置き、労った。しかし、海王の表情は浮かなく悔しさを滲み出したものだった。
店長は労いもそこそこに「一位」の発表に入った。
「一位! 遊生輝! 360万!」
ああ、いつもの通りか。やっぱり遊生輝さんは凄いなぁ。そんなことを考えながらホスト達は遊生輝に向かって万雷の拍手を送る。いつものことである。拍手を送らないのはナンバー2の海王だけであった。
そして行われるのは閉店後の後片付け、主に新人の下っ端ホストが行う。『オリュンポス十二神』と称される上位のホスト達は次の売上のためにアフターとして先程別れた客と合流し、改めて飲み直したり、食事に行くか、ホテルに行くのであった。だが、トップの遊生輝は閉店と同時に即帰宅。新宿歌舞伎町からほど近い自宅マンションにて『想い人』を待つのであった。
シャワーを浴び、バスローブを纏い、テーブルの上には『想い人』の好きなカットフルーツが用意してあり、その横にはフルーツに合う紅茶が置かれていた。
帰宅から二時間後…… インターホンが鳴った。遊生輝は縮地を思わせる程の素早いステップで玄関に向かって駆け抜けた。
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