46. 映画祭

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「俺たちはよくやった。もう死んでもいいくらいにやり切った」  式の直前会場であるのロマンドール会館の前でタケオが言った。彼の棒読み演技は最後まで治らなかったが、動画のコメント欄を読む限りではかえってそれがウケていたらしかった。 「まさかダンスのコーチすることになるとは思わなかったけど」 ニコルが苦笑いを浮かべた。 「あのスパルタ指導のせいであなたが夢にまで出てきた。もう出てこないでね、頼むから」  悪夢のせいで寝不足気味だった私の心からの懇願に、ニコルは不愉快そうに顔を顰めた。その隣のジョーダンはハンカチを目に当てて涙を拭っている。 「本当にみんなよくやったわ、私の愛する子供たち……」 「お前の子供じゃないけどな」  タケオが冷静にツッコミを入れる。 「私もこの作品に参加できて良かった。こんなな伸び伸び仕事したのはいつぶりかしらね。辛いことがあって落ち込んでいたのもこの仕事の間は忘れていられたし、本当に心から楽しかったわ」  ルーシーは目を潤ませている。 「私もこんな色んな意味で印象に残る作品もう二度と出られないと思うし、絶対、一生忘れないと思う」  私は言った。ありがとうと言う代わりに、ずっと支え合ってきた仲間たちにこの気持ちを伝えたかった。 「本当に皆よくやったよ。監督仲間には最初の映画がバズる訳ないって言われたし、酷評する奴もいた。だけど俺はやれるって思ってたぜ、だってお前たちだし、俺がメガホン取ったんだし旦那の脚本だしな。ラストも最高だったし……色んな人に映画を観て笑ってもらえて、ついでに感動まで与えられた。俺はもう後悔はない」  鼻を啜り感慨深げに語るチャドの隣でルーカスも目を潤ませている。  こんな風に何か一つのことをやり遂げたと思えたのは生まれて初めてだった。ここまで来たからにはトロフィーを獲りたかった。正確にいえばチャドの手にトロフィーを握らせたかった。海を渡り苦労して監督になった彼がようやく指揮をとった作品で栄誉に輝くのなら、私だって皆だって取り組んだ甲斐があったというものだ。だがこの際結果よりもこの清々しいほどの達成感が大きな勲章に思えた。
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