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4. 撮影風景
ケイシーは先ほどから、しつこく演技についてのダメ出しをしてくる。演出家や監督ばりのダメ出しに半ばうんざりしながら答えていると、自分の出番を一旦終えたクレアがやってきた。シルバーの艶のあるストレートヘアに若草色というペリドットのような不思議な瞳の色をしたクレアは、静謐で知的な空気を纏っているが、話すと案外気さくで面白いから好きだ。圧倒的な才能と知名度を誇りながら、スタッフにも共演者にも分け隔てなく親切に接する彼女を嫌いな人はきっといないはずだ。
「ケイシー、あなたはちょっとリオに絡み過ぎよ。まるで特別な思い入れでもあるんじゃないかってくらい」
クレアはケイシーの肩にそっと手をやり、いつものおっとりとした口調で嗜めた。
「ケッ、こんな女に思い入れなんてないわ!」
ケイシーは吐き捨てるように答えた。彼がこんなに不機嫌な理由は、先ほど私がついたジョーダンに関する嘘を本気にしているからに他ならない。彼は私に嫉妬をしているのだ。元々私とジョーダンはプライベートでも仲が良くて、ご飯に行ってファッションやメイク、ネイルなどに関するアドバイスを貰ったり、個人的な悩み事の相談をしあったりゲームなど趣味の話をしたりしていた。ケイシーはそれを知っているから余計に、ジョーダンが私となら付き合っても良いと言ったという嘘が真実じみて聞こえたに違いない。
ケイシーは散々嫌味を言って気が済んだのか、仲の良い男性スタッフの元へ駆けて行った。
「ケイシーは私のことが嫌いみたい」
ぽつりと漏らした私にクレアは優しく微笑みかけた。
「あなたがあんまり綺麗でスタイルも良いから、嫉妬してるのよ」
「絶対違うね。あぁ、早くジョーダン帰ってこないかなあ〜」
ジョーダンが帰ってきたら、ケイシーがジョーダンのことを馬鹿だと言っていたと告げ口してやろう。そんな小学生のような意地悪を思いつく私は、かなりレベルの低い人間なのかもしれない。
そうこうしているうちにクレアとの掛け合いのシーンの撮影が始まったので、私は頭を芝居モードに切り替えることにした。
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