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「アクション!!」
監督の一声で私とクレアの出演シーンの撮影が始まる。この場面は、クラウディアと幽霊の私が同じ家のリビングにいながらすれ違うという重要なシーンだ。
『テイラー、あなたは一体どこにいるの? レットにはあなたが見えるのに、私はあなたの姿を見ることも、触れることすらも叶わない。私は今、あなたのことをこんなに必要としているのに……」
クレアは芝居モードに入った途端、普段の穏やかな性格とは一転、全く違う顔を見せる。彼女はその悲哀に満ちた表情と口調で、事故で幼馴染を失った悲しみを切実なほどに訴えかけてくる。クレアがクラウディアになると現場の空気がガラッと変わり、他の俳優たちや監督やその他撮影を見守るスタッフも、水を打ったような静寂に包まれる。
『クラウディア……私はここにいる。前みたいに話したり触れることができなくても、あなたをずっと側で見守っている』
クラウディアに近づくテイラーーーそしてここはCGの出番だがーー抱きしめようとするもクラウディアの身体を擦り抜けていく自分の腕に愕然とする。そのシーンで予想通りのカットが入る。
「ダメダメ、ぜんっぜんダメ。リオ、君には情感ってものが無いのか? クラウディアを愛しているのに声が届かない、姿が見えているのに触れられないっていうどうしようもない気持ちを、もっと切々と表現できないもんかなぁ〜?」
緑色の折り畳み椅子に腰掛けたジェイソン監督は、長く伸びた髭をさすりながら私に向かって筒状に丸めた台本を突きつけた。
「大体にして、テイラーはクラウディアを愛してるんですか? 初耳なんすけど」
そんなこと脚本には一つも書かれていなかった。すぐ隣にいるクレアも「私も初耳」と小声でつぶやいている。
「アレ? 言ってなかった? そういう設定に変わるんだよ。君らは実は愛し合ってたんだけど、距離が近過ぎて気づいていなくて、テイラーが死んでしばらくしてから気づくんだよ。な、そうだよな?」
監督が脚本家のメーガンの方に視線をやると、メーガンは怪訝な表情を浮かべ「そうでしたっけ?」と首を傾げた。他のスタッフも互いに顔を見合わせながら首を傾げている。脚本家のメーガンも知らないのなら私とクレアが知る由もない。そもそもクラウディアとテイラーは『幼馴染であり親友』で、それ以上の特別な感情があるとしたら人間愛であろうというのが、私とクレアの間の共通認識だった。それを覆すような設定変更を急にする監督はかなり無茶苦茶であるとしかいえない。
「とりあえず、そういうことだからよろしく」
有無を言わせない勢いで撮影が再開され、その後監督や演出家からこてんぱんに演技のダメ出しを受けた私は、楽屋に戻ったときこれでもかというくらいに不貞腐れていた。そもそも人を好きになったことのない私に愛するという感情が理解できるはずがないではないか。クラウディアを愛しているテイラーに感情移入など出来るはずがない。自信を無くしている私の元に、タイミング良く友人でモデルのミシェルからLINEのメッセージが届いた。
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