9492人が本棚に入れています
本棚に追加
/1168ページ
「ほほ、そなたを帰すわけにはいかぬ」
・・・だよなー、だからここに連れてきたんだもんなー。
小人も善良だったとはいえ俺をすぐ帰す方に考えてくれなかったし、物語の登場人物ってのは現実の人間の困り感てもんを一切考慮しないのか。
問答無用でミハイさん呼んでもいいかな。
それとも、今後のために一応この継母王妃の意図を聞いといた方がいいんだろうか。
「そなたはこの鏡のことを知っているかえ?」
俺が黙っていたら、継母王妃の方が壁に掛かった姿見用の鏡を指して尋ねてきた。
フレームの装飾が凝っているそれが、例の魔法の鏡か。
「知ってます。質問をしたら正しく答えてくれるんですよね」
それでこの継母王妃は『世界で一番美しいのは誰?』と尋ね、鏡が『それは白雪姫です』と答えたから白雪姫を殺そうとしたんだっけ。
こうして見ているだけなら普通の鏡なんだけどなあ。
「ならば聞いてみよう。鏡よ鏡。この世で一番優れた料理人は誰?」
継母王妃が問うと、鏡の表面がうっすら光った。
鏡の中にぼんやりとした顔のようなものが浮かんできた気がするが、俺からはよく見えない。
『お答えします、お妃様。それはこの城の料理長です』
「何!?この男ではないのか!?」
鏡の答えに愕然とする王妃。
鏡、正確に答えてくれてありがとう。
そりゃそうだろう、お城お抱えの料理人はプロ中のプロだろうよ。
それに対し、俺は数えきれないくらいある居酒屋の一店主。
俺くらいの料理人なんて普通にいるもんな。
そんな料理長の作る美食を毎日堪能しているだろうに、何でそれ以上のものを求めるんだ、この継母王妃は。
最初のコメントを投稿しよう!