ネオレッド参上

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ネオレッド参上

 高校に入学してすぐの時だった。  移動教室のため下を向きながら一人で廊下を歩いていたら人にぶつかった。自分からぶつかったのに、床に尻餅をついた。  ぶつかった人に謝ろうと思い、見上げた先には金髪で耳にも口にもピアスをしている不良が僕のことを見下ろしていた。  その不良は腰パンしたズボンのポケットに手を突っ込んで、前屈みになり顔を覗き込んできた。僕はすぐに前髪をかき降ろし、目を隠した。 「お前、どこに目つけてんだよぉ」  大声に身も心も縮こまった。周りにいた生徒達が足を止め、小声で話す内容が嫌でも耳に入ってくる。 「あの人だよ」 「ほら、3年生ボコボコにしたの」 「え。2年だろ、あいつ」 「うわ〜あの1年、可哀想」  ボコボコか…… 「なんか言うことねぇ––––––いでっ!」  面識もない先生が僕を追い詰めている不良の頭を出席簿で叩いた。スーツを着てメガネをかけて華奢な人だ。 「叩くなよ、神宮寺(じんぐうじ)」 「神宮寺先生だろ」 「うっせぇ、神宮寺」 「はい。お前、職員室連行な」 「いでててて」  神宮寺という先生が不良のチャラチャラとピアスがついた耳を引っ張り職員室へと連行していく。不良も不良でそこまで抵抗していない。  先生は少し頬がこけている。痩せ細っていて殴られたら一発でダウンしそうなのに、この不良に対して怖がることなく圧倒的な立場で手懐けている。飼い主と飼い犬の様だ。大人になると怖いものは無くなるのか。  でもその金髪の不良がなぜ今ここ––––––体育館裏に?   そしてなぜ友達でもない僕のことを守ってくれたんだ。  一年経ってもあの時と同じ様に、耳にも口にもピアスは健在。ブレザーのボタンも閉めず、シャツはズボンから出し、腰パン。そのポケットに手を突っ込んで身体の重心を右寄せている。やっぱりだらしない。   「俺はな、お前らみてぇな弱い者をいじめる奴らが一番嫌いなんだよ!」  こう言い放った金髪の彼は深呼吸をし、深い息を吐きながらポケットから手を出した。さっきまでダランとしていた姿勢を正し、股を広げ、左手を腰に置き、右手を前に突き出す。  何が始まるのか固唾を飲んだ。腹を抱えながら倒れている佐久間達も彼に注目している。  金髪の不良は右手で星を描くように上下左右に動かした。そして描いた星を前に突き出すかの様に右手を前に押し出した。  この動作は––––––。 「な、な、な、なんなんだよ、お前」 「こいつ変だぜ」 「覚えてろよ」  この動作が合気道か何か勘違いし、勝ち目がないと分かったのだろう。佐久間達は慌ててお互いを支えながら体育館裏から逃げていった。  彼は「ほら」とまだ倒れている僕に立つよう手を差し伸べてくれた。その手をしっかりと握った。いかつい手だ。引っ張られる力が思いの外、強かったので勢い余り僕を救ってくれた不良の胸に飛び込んでしまった。 「……すみません」  すぐに離れようとしたがそのまま抱きしめてくれた。僕は恐怖と緊張が解放され、所構わず泣き出してしまった。人前で大声を出して泣くのはいつぶりだろう。    そんな泣きじゃくる僕を嫌がる素振りを一つも見せず、泣き止むまで抱きしめ続けてくれた。  正気を取り戻した僕は鼻を啜りながら不良から離れた。抱きしめられていた胸元のシャツには涙が染み付いる。シャツを汚してしまった罪悪感に駆られ、お礼を言わなくてはいけないのに、前髪を触りながら「すみません」と謝った。 「お前、名前は?」 「神谷。神谷正吾です。お名前は?」 「俺の名前?」  う〜んと言いながら彼は手を唇に当て考え込んでいる。  名前がないのか……  そんなわけがない。  面倒なことを避けるために伝えたくないのか……  だとしたらこの質問は愚問だった。  沈黙に耐えられず僕は言葉をかけた。 「言いたくなかったら大丈夫です。とりあえず助けて–––––––」 「ネオレッドだ」
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