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光戦隊ネオレンジャー
僕を助けてくれた金髪の不良は自らを『ネオレッド』と名乗った。
冗談なのか本気なのか。名前を訊いたこっちが恥ずかしくなった。
ネオレッド……
妙に馴染み深い名前だ。
彼は地面に落ちていた鞄をヒョイっと拾い上げ肩にかけ、だらしなく歩き、体育館裏から去って行く。
さっきの動き……
一つの疑問に駆られながら、どこか懐かしいような気持ちにさせられた。
『ネオレッド』というキーワードと彼がしていた動作をも今一度思い出してみた。すると一気に幼稚園の頃の思い出が蘇ってきた。
そうだ! 光戦隊ネオレンジャーだ! あの動作は!
懐かしさはこれだったのか。
幼稚園年長の頃、毎週日曜朝七時半から『スーパー戦隊シリーズ:光戦隊ネオレンジャー』が放送された。
僕は特にネオレッドとネオグリーンが好きで、変身アイテムや人形を買ってもらった。
ネオレッドはもちろんネオレンジャーの中で一番強く、みんなから頼られる存在だった。ネオグリーンは少し気弱だがネオレンジャーの頭脳と呼ばれていた。
戦隊ごっこをする時、このどちらかになれたらと思って毎日近所の公園に出かけた。
でも現実は違った。近所の友達と戦隊ごっこをしても、いつも敵に襲われる役だった。
「助けてー。ネオレンジャー」
これが僕のお決まりの言葉だった。
一度だけネオグリーンをやらさせてもらえたが、その後はまた一般人に戻され、公園に遊びに行くのやめた。
家でネオレンジャーの人形で遊んでいた方がマシだった。自分が作ったシナリオで。
僕は幼稚園の頃から成長してないんだ。
高校生になってまでネオレッドに助けてもらった。
自分への落胆とネオレッドに助けてもらったという事実に恥ずかしと嬉しさで頬が熱くなる。その気持ちを押し殺すように制服についている埃や砂を払い落とし、授業が始まっている教室へ向かった。
この日、初めて先生にも親にも嘘をついた。
きっと彼らにしたら「転んだ」なんて見え透いた嘘だったのだろう。制服があまりにも汚れていたから。親が心配してるのを他所に、僕はそれ以上の質問に答えることはしなかった。
寝る前に、結局ネオレッドと名乗る金髪のヒーローにお礼を言ってないことに気づいた。
同じ高校に通っている訳だし、近いうちにどこかで会ったらお礼を言おう。
けど、次の日も。また次の日も。そのまた次の次の日も会うことはなかった。見かけることさえも。
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