ネオレッドの正体

1/1
前へ
/25ページ
次へ

ネオレッドの正体

 桜の花びらが舞い落ち、新芽が生えてくるように僕を助けてくれた金髪の不良への記憶は霞み、それと同時に彼への興味が湧いてきた。    なぜ会えない、というよりはネオレッドの正体が知りたという気持ちの方が大きい。  あなたは誰ですか?  教室の窓から見える空の青色と森の緑色のコントラストを眺めながらそう頭の中で質問した。  そう思っていた矢先、意外な場所で彼と会う機会が訪れた。  四時間目の生物の授業が始まった直後、コンコンとドアをノックする音に先生を含め生徒全員の目線がドアへと集中した。  そろりと開くドアからは担任の神宮寺先生が申し訳なさそうに顔を出す。生物の先生に「すみません」と会釈し、誰かを探し始めた。  目が合った神宮寺先生が手招きしながら名前を呼んだ。 「神谷、ちょっと」  目を見開いて自分で自分を指さした。  特進クラスの担任である神宮寺先生は滅多に他の先生の授業を邪魔しない。ましてや中間試験前の大事な時期だ。その神宮寺先生が僕を呼んでいるのだから大事なことなのだろう。開いていた教科書を閉じ、廊下に出た。 「悪いな、神谷、授業中に」  いえっと首を軽く横に振った。 「風間のことに関して何だけどさ」  風間というキーワードですぐに始業式の日に起きた出来事に関してだと勘づいた。  あれから風間をクラスで見ることはなかった。だからあの後、彼がどうなったのかは知らない。 「風間は大丈夫だったんですか?」  しまった。  こんな質問をしたら先生に僕が何か知ってるだろうと気付かれてしまう。その予感は的中した。 「大丈夫って……お前、何か知ってるだろ」 「……いや」  チクっただろう、とまた佐久間たちに絡まれたりしたらたまったもんじゃない。僕はあの日以来ビクビクしながら学校生活を送っている。でも彼らもあの日以来、学校に来ていないのか姿を見かけなかった。 「そっか。一木(いちき)について何か知ってるか?」 「一木? 誰ですか?」 「知らないか? ほら、三年で、金髪の」  今まで探していた場所に一歩近づいた気がした。目から鱗のような情報をくれた先生に感謝しながら確信が持てるように訊いた。 「口と耳にピアスをしてる人ですか⁈」 「そうそう」  ネオレッドの苗字は一木。 「ネオレ……いや、その一木さんって人がどうかされたんですか?」 「いやさ––––––」と話し出す先生の顔が妙に怪訝そうだ。  先生から伝えられた一つ一つに驚きを隠せなかった。書き換えられたシナリオ。真実なんてものはそこには何一つなかった。  始業式の後、風間が一木さんに急に呼び出され、一方的に暴力を振られた。その現場をたまたま通りかかった佐久間たちが仲裁に入って助けようとした。その佐久間たちも殴られボコボコにされた。そしてその現場を僕が目撃した。 「一木がそんなことするはずないんだよな」  先生は最後に首を傾げた。 「それ…… 全部嘘です!」  ついつい語尾が強くなってしまった。嘘をつく佐久間たちにもちろん、風間にはもっと腹が立った。どうして僕を助けてくれたネオレッドを悪役にするのだ。 「だよな? ちょっとさ、先生と一緒に校長室来てくれないか」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加