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3人は、テレビの画面から目を離さずに適当に手だけを動かして、グチャグチャと畳んだが、テレビ画面との距離はそのままだった。
2つ以上のことを言われると1つ目を忘れてしまうのは子供にはよくあることだ。
「おい、お母さんの言うことを聞いて下がれ」
父の信がそう言ったのは美里への助け船ではなく、自分の位置から子供達が邪魔でテレビ画面が見えづらいのが理由である。
子供達は相変わらず画面から目を離さずに、ズリズリと後ろに下がった。
「まったく……こんなボール遊び、何がそんなに面白いんだか」
美里はカラリと言い捨てて忙しげに台所へ消えていった。
フォッフォッフォッ、と、祖父の抄造が楽しげな笑い声を上げた。信の向かいで座卓に寄りかかって、自分で漬けた自慢のぬか漬けをつまみに美味そうにビールを飲んでいる。
そして空になりかけた信のコップにもビール瓶を傾けた。
――なぜ、ため息になったのだろう。
らいとはずっとテレビ画面から目を離さなかったのに、よくわからなかった。
打球が飛び込んで客がついたため息。
観客席に入った打球で彼らが狂喜乱舞することもあったはずだ。
それが、今はため息の後、すぐに何事もなかったかのような雰囲気に戻っている。
アナウンサーが連呼していた。
「ファール、ファール、ファールです。大きなファールでしたねえ。ピッチャーは、さぞかしヒヤッとしたことでしょう」
――?
えっと……。
らいとは頭の中でぼんやり点った「?」の正体に行き着かない。
いつもそうだ。
らいとの思考回路は迷路なのかと思うくらい、答えに辿り着くのに時間がかかる。
「ファールって何?」
そう、それ。
今の「?」の正体はまさにそれだ。
怜布がらいとの心を読んだかのように、しかも簡潔に一言で大人に問い質した。
抄造が嬉しそうに答えようとすると、信がサッとビールを置いて答えた。
「それはな、ファールラインの外に飛んだ打球のことだよ。ファーストとサードの横にそれぞれラインがあるだろう? その外に飛んだら無効なの。2ストライク以降は何本打ったってカウントされない」
あはははは、そうかあ、と仙汰がすぐに笑った。
仙汰は何のことやらわかっていなくてもよく笑う。
愛想がいいことにかけては定評のある弟なのである。
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