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抄造が、自分が答えたかったのに、という不満顔で信を睨んだ。
そこそこの野球好きだが抄造の詳細で綿密な野球知識には叶わない、という自覚のある信は、こうしてわかることについてはスピードで対抗して自分の手柄にする。
よく「腹黒い」と抄造に愚痴られている。
怜布はブスッと画面を睨みつけたままもう一言聞いた。
「じゃあラインの内側の客席なら?」
「ホームラン! 点が入る」
信と抄造が競うように同時に声を張り上げた。
なぜ、ため息になったのか。
そうか。
そうだったんだ。
ファールは、カウントされない。
ホームランかと、点が入るかと乗り出したらファールだった。
だから、ため息になったんだ。
らいとは一つ息をつき、おっとりと笑った。
と、怜布が横からどん、と小突いてきた。
そんなことでホッとしてどうすんのよ、というイライラが伝わってくる。
らいとは、そうだった、とまた顔をひきしめた。
「ファールは2ストライク以降はカウントされない……ホームランなら点が入る」
らいとは国語の授業で先生の後について読むときのように、信と抄造の解説を口の中で繰り返した。
そして怜布とちらりと目をかわした。
7歳の仙汰は、ただ2人の姉を真似てテレビを見ているに過ぎず、従ってお気楽に笑っている。
らいとと怜布の胸中の焦りと苛立ちに気付いているわけもない。
抄造はぬか漬けの最後の一つを口に入れながら、ピリピリした空気を放つ2人をニヤニヤと見つめていた。
――そう。
らいとと怜布がこんなにも真剣に中継に観入っているのは、野球が好きだからなのではなかった。
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