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2人の誕生日である7月はプロ野球シーズン真っただ中。
筋金入りの野球ファンを自他共に認める抄造は、嬉々として野球のキーワードを絡めた暗号を作った。
「迷惑よね」
怜布が広告の裏に「ノースリーのかまくら」の文字を並べ替えたりローマ字に書き替えたりしてはイライラと塗りつぶした。
わっかんないなー、と後ろにひっくり返る。
「そう?」
らいとがそう返事すると、怜布は寝た格好のまま、あ~あと伸びをした。
「おっとりしてんだから、お姉ちゃんは」
怜布は去年、暗号を解けずにプレゼントが1か月以上も遅れたというあまりの悔しさに「野球なんか大嫌い」と、信や抄造が野球を観ているときはテレビに近寄らなかった。
シーズンが完全に終わるまで全くだ。
だから、今年は暗号を解く前に家中を探し回った。
けれどプレゼントの隠し場所はわからなかった。
仕方ないので野球中継を見、暗号を解こうとしているわけだが、……やはり一筋縄ではいかない。
怜布はまた「迷惑よね」と繰り返した。
そりゃあらいとだって、こんなまどろっこしいことをせずに早くプレゼントを手にしたい。
でも迷惑だと言い切るほどにイヤというわけでもない。
だって宝探しみたいでちょっとワクワクするじゃない。
11歳になる今年はうまく探し当ててじいちゃんに誉められたい……そんな気持ちもある。
それをどう説明したら怜布にわかってもらえるのかと、「う~ん」と唸りながら考えた。
「鎌倉って場所じゃなくて……キャッチャーの鎌倉選手かな? とすると……」
だが怜布はひょいと起き上がって、会話の次の節に入っていた。
らいとはその変化の速さにいつも乗り遅れる。
「ほらラインの内側の客席に入ったの打ったじゃん、こないだ。つまりファールじゃなくてホームラン。何か0―3から打ったってアナウンサーがやたら叫んでた」
「う~ん……でも0―3から打つと何なの?」
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