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2人は壁やら天井やらを睨んで考えた。
だがさっぱり答えは出ない。
業を煮やした怜布はスックと立ち上がり、障子を開けた。
「怜布、どこ行くの?」
「空き地」
怜布は階段を駆け下り、家を飛び出した。
らいとも慌てて続く。
怜布は頭で考えるより言葉が先に出る。言葉よりも体が先に動く。
怜布が駆け付けたのは、近所の男の子達がよく野球をして遊んでいる空き地だった。
「ねえ、0―3から打つと何なの?」
怜布が、試合中にもかかわらず、一番近くで守っていた顔見知りに尋ねた。
臥体はでかいが怜布と同い年の4年生。
通り一本向こうの豆腐屋の息子だ。
――そうか。
ようやくらいとも気付いた。
野球をやっている本人達ならば、この謎はらいとや怜布のような素人よりもわかるはずだ。
そうか、そうか、なるほど。怜布ってあったまいい。
らいとはそこに行き着いただけで満足して笑みが浮かんでしまった。
怜布がゴチャゴチャ聞いているせいで、豆腐屋の息子は飛んできたボールを取り損なってしまった。
周りから野次を浴び、ボールを追いかけながら「うるせーからもう失せろ」と怜布に怒鳴った。
怜布は涼しい顔をして「ありがと」とニッコリ笑った。
すると邪魔をされて罵声をあげていた他の少年達も、思わず「あ、どうも」と和んだ。
この怜布の、周りを自分のペースに巻き込む鮮やかさには、らいとはいつも舌を巻く。
らいとが木の切り株に腰掛けて感心していると、怜布は収穫ありといった顔でやってきた。
「0―3って、次の球は見送るのがセオリーなんだって。ほら、次がボールだったらフォアボールで塁に出られるでしょ。たとえストライクでもまだ1―3で打者有利だからって」
「へえ……」
「つまり普通なら見送るカウント。なのに鎌倉は打っちゃった」
審判をやっていた少年が、怜布を追いかけてきて親切にもう1つ付け加えてくれた。
「けどな、0―3の後はピッチャーもフォアボールを出したくないから甘い球投げてくることが多いんだぜ。だからバッターにとっては打ちに行くチャンスとも言えるんだ」
「あ!」と2人は顔を見合わせた。
「内さん家だ!」
2人は、きょとんとする少年達を置いて、先を争って駆け出していった。
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