むすめ屋ミサオ

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 一番古い記憶は、花も木もない荒野の映像だ。 「あなたの家よ、ミサオ」  真ん中にポツンと建つ一軒家を前に、女は告げる。(かぶり)を振りながら、私は抵抗した。 「ミサオじゃないよ。私の名前は……」 「いいえ、あなたは(ミサオ)。今日からあなたは、私の娘」  今日からあなたは、私の娘。  今日からあなたは……  今日から…… * 「あら、遠藤さんちのアッコちゃん? 帰ってきたのぉ」  背後から甲高い声で呼びかけられ、庭いじりの手を止め振り返る。声の主である初老の域に入りたてらしき女は、笑みを浮かべたまま私の元へとにじり寄ってきた。 「あ、覚えてないかぁ。裏隣の原口(はらぐち)。アッコちゃんが赤ん坊の頃、オムツを替えてあげたことがあるのよぉ……って、覚えてるわけないわよね。こっちに戻ってきたの?」 「裏隣の……原口さん、お久しぶりです。ご無沙汰して……」  端から聞く耳など持たなかったのだろう。隣人を名乗る女は、私の回答を待つことなく、自らの近況をあけすけに語り出した。
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