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「去年、定年でここを辞めた専務だった大木ですよ。本当なら専務はそのまま相談役として会社に残るのが普通だけど、伯父が言うにはこの会社は危ないから退職金を貰ってとっとと辞めた方が良いそうなんです。それにここは創業者一族しか社長にはなれないからそんな社風がずっと嫌だったそうです。
そして私には、会社が危ないって事は絶対に周りの社員には言うなと口止めしました。
だから、私、いずれ倒産する会社なのに知らずに必死で働いている皆さんが気の毒で気の毒で…。」
驚きで言葉を失っている私達2人を尻目に丸山さんは話しを続けた。
「それに、仕事って、エアコンの無い倉庫に行って棚卸しとか、想像していたのと全く違ってたし、何度も注意されるのも嫌って言うか、何で潰れる会社なのに皆さんそんなに一生懸命になれるんでしょう。
私も内緒にしていた事、話しちゃったし、もういいです。退職届け出しますね」
と言い、丸山さんは本当に辞めて行った。
確かに去年まで大木と言う専務はいた、社長始め重役連は創業者ファミリーで占領している我が社では一族ではないのに専務まで昇り詰めた、言わば伝説の人だ。
しかし、我が社が危ないとは?
1世紀近く続いた老舗有名会社の我が社が潰れるとは?
一緒に丸山さんの話を聞いていた課長の顔色が悪い。
俺は不安を胸に抱え、仕事が身に入らなくなり成績も下がった。
が、成績降下が悪目立ちする事は無かった、何故なら何処からともなく会社が危ないと言う噂が流れ集中力を欠いて成績降下する社員が増えたからだ。
…
そして2年後、会社は本当に倒産した。
【完】
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