プロローグ スラム街にて

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 逆にグリッドメーカーは相手の男のことを何も知らない。どういう目的で彼に近づき、話しかけてきたのか分からない。素性も知らない不審な相手からの怪しい勧誘は普段だったら軽くあしらうはずだったが。その日は飲み過ぎたせいなのかスーツ姿の男の口車にまんまと乗せられた。  創作物を褒められたことで少しいい気になり過ぎていた。目が覚めた時には身に覚えのない冷たい倉庫の床に横たわっており、いつの間にか右掌には妙なコードが埋め込まれていたと彼は愉快そうに語った。 「力を与えられて俺はこう思ったんだよ。エクスマキナ内で飲む酒は所詮は紛い物。ドーパミンの分泌量を増加させ酒に酔った時に近い状態まで持っていくことはできるがその程度でいくら飲んでも酔えやしねぇ。だがこの力を使って脳味噌にちょいと強めの刺激を自在に与えることができりゃ現実の酒よりもスゲーものができるんじゃないかってな」 「お前の作品だって紛い物だ。自分の実力で作ったものじゃない。他人から与えられた力に溺れているだけの三流だ」 「馬鹿かお前。この力は俺にとっては画筆でしかねぇんだよ。芸術的素養の無いヤツが力を使ってもゴミしか生まれないのが分からねぇのか。想像力が無いガキだな。お前に芸術は分からねぇよ」 「プログラムをバラして絵の中に忍ばせるという狡猾な手口はそいつから教わったのか?」
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