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no-side────────
「はあああっ!?」
(うるっっさ……!)
間近で叫ばれた龍心はキンと不快感を訴える耳を咄嗟に塞いだ手を外すと、もはや条件反射で自らの2番目の兄の頭上へと振り下ろしていた。
「い"、っ……!」
パシン、とやや軽快な音が響くと同時に、龍心の兄……笠田 皇夜の喧しい叫び声が止んだ。
たまり場の個室、おのおの騒いでいた連中はなんだなんだとこちらに注目を集め始めていた。
「このっ……クソ兄貴!マジで耳壊れる!ほんとばか!」
「あ、いや……ワリ、つい」
そんな間にも、その場にいた柄が悪くも気のいい不良たちの間で笑いが広がっていた。「いやぁ良い音だったなァ」とか「ありゃー中身の入ってねー音だった」等々、それはもう好き放題である。
しかし、皇夜にとってはそれどころでは無かった。
「で、その……茶髪の女って?白瀬さんのなんだったんだよ」
「いや、おれだって詳しくは知らないけどさ……なんか中学の時の知り合いっぽかった」
「そ、それで?仲良さそうだったのかよ」
「おれにはそう見えたけど……白瀬さんの事名前で呼んでたし、普段から駅まで送ったりしてたっぽかったし……」
今まで女の影など無かったスグリの名前呼びに皇夜は「名前っ!?……え、送りって……」などと見るからに動揺しはじめた。
龍心は甘味好きなうえに見た目こそ可愛らしいが、心は男前である。自分の兄の女々しさにイラッとしていた。
「あああ……つーか!兄貴しつこい! あの白瀬さんだぞ?女の1人や2人でそんな慌てんなよ!今更だろ!」
「そうだけど!そうなんだけど!」
「だからうっさい!声でかい!」
「わかった!ごめん!!」
「わかってない!」
龍心はいつまで経っても落ち着きを取り戻す兆しが無い兄の様子に、このポンコツがと舌打ちをする。
喧嘩の際は化け物のような馬鹿力で傍若無人に敵を倒して駆け回わり、それこそ弟の自分でも憧れるほどの姿で下っ端の不良達の心を掠め取っていく癖に。一体何故こんなにも喧嘩以外がポンコツなのだと、龍心は我が兄ながら残念さに呆れていた。
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