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「はははっ、謝る声までうるせーなアイツ」 ここ、たまり場である“ 雨 ”を実家とする川崎 勝馬(かわさき かつま)はこの騒ぎを他の不良同様楽しんでいるようだ。 そして、それとは対照的に影一(かげいつ)の機嫌は急降下していた。 「……アイツ」 「?どーした時雨」 「何でもねェ……」 不思議そうに首を傾げる勝馬に眉間に皺を寄せてまま絞り出すようにそういった影一に対し、怪訝な様子でさらに首を傾げた勝馬は、手近にある水に手を伸ばした。 今の勝馬は休憩中だが、それが終われば業務に戻る。不良とはいえ流石に酒を飲む訳には行かない。 影一の脳裏に蘇っていたのは、見るからに不良で裏の人間だと周知されている自分に対しての不自然なくらい社交的な態度と、それとは裏腹に敵意丸出しのあの目だった。 影一は彼女がスグリに向ける感情が、自分がスグリに向けるものとまるで同じものだと気付いていた。 彼女はクラスメイト達の前で表立って絡んで来ることこそなかったが、それも面倒事を避けるためでしかないことを知っていた。 彼女が影一に向ける目は、影一がスグリの弟である理桜に向ける目によく似ていた。 影一は殊、自分を腹立たせる事を大得意とするあのいけ好かない幼馴染の弟を思い出し、また額に青筋が立つのを感じた。あの男、弟という立場を利用してベタベタ、ベタベタと……影一は思い出しただけでも不快な気分になった。 「?つか、中学ってーと……おい、時雨。お前何か知らねーのか?」 「あ?」 不意に呟いた勝馬の声は、殊の外その場に響いた。 ピタリと動きを止めた皇夜を初めとする不良たちの視線は、やはり時雨に固定されていた。 「…………」 「知ってんなら教えてやれば?大人しくなるかもしんねーぞ」 「……知ってるも何も、白瀬に片想いしてる女って事くらいしか知らn────」 影一の言葉を遮った「片想い!?」という声。言わずもがな、その主は皇夜である。一方、影一はコイツやっぱり……と皇夜がスグリに向ける感情の種類に対しての疑いを深めていた。 「うるせェぞ笠田」 「す、スンマセン……」 「心配すんな、アイツは気付いてねェよ」 「気付いてない」と、影一の言葉を苦そうに反芻する皇夜に、影一は淡い共感をしていた。 「つーか。相手が誰だろうがアイツは基本、相手にしねェだろ」 ────…例え俺でもな。 そんな言葉が心の中で続いたように感じたのは、きっと気の所為ではない。
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