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* * * スグリside──────── 「────オイ」 「…………」 店内を黄色味がかった光が照らす、相変わらずの溜まり場。 常ならば暇を持て余した不良たちが集うここはしかし、今だけは少々気まずい静けさがその場を支配していた。 俺は時雨に呼びかけられたものの、咄嗟のことで返事に詰まってしまった。 ……な、なに? さっきまで黙ってお酒飲んでただろ? 何でみんなが帰ったら急に喋り出すんだ? 2人だからか? へ、変な気使わなくていいのに…………ァ。 カシャン────!! 何か硬いものが床に打ち付けられる音。それは俺のすぐ右から聞こえてきた……っていうか、机の上に伏せて置いてあったソレに俺の肘が当たった。 「…………テメェ」 コメカミに青筋を立てた時雨を視界に入れてしまい、背筋を冷たいものが伝ったが、勘違いしないで欲しい。俺が落としてしまったのは俺の私物であって、間違いなく時雨のものでもなければ他の誰かのものでも無い。 「……腹立つからって落としてんじゃねェよ。自分のだろ」 テーブルを挟んで向かいの席に居た時雨はふらりと立ち上がり「壊れたらどうすんだ」と不満を垂れながら、俺がフリーズして落とした状態のまま放置されていた携帯を拾い上げて隣に座ってきた。 あ……ごめん、拾ってもらって。 けどなんでわざわざこっちに移ってきたんだ……? いや、拾ってくれたのはありがたいんだけどさ。 拾ったそれを返してくれるのかと思った俺は、隣に座った時雨へと体を向けた。が、そこで彼が口にした全く脈絡のない名前に、頭が再びフリーズを起こすのを感じた。 「松前 花────…」 不意に呟かれた名前。聞き覚えがあるどころか、つい先日も後ろに龍心を引っ付けた笠田に謎の尋問をされたばかりだった。 ちなみにその間、龍心は何故か『マジごめん』と言った疲れ顔で笠田の背後に佇んでいた。なんだかよく分からないが相当に疲れているようだったので、労いの頷きをしつつ龍心には心の中でサムズアップしておいた。がんばれよ、なんかよくわからないけど。 いや、にしても……なんで松前さん? 「……会ってんだってなァ?」 酷く機嫌の悪そうな時雨に、俺は内心で頭を傾げる。 理桜とならいざ知らず、松前さんと時雨とでは、特段仲の悪さは感じていなかった。 むしろ、松前さんは不良の要素をかき集めたような見た目&言動の時雨相手でも常に明るく接していたくらいだ。 時雨としても悪い気はしていないようで、彼にしては珍しく俺たちが話している際、口を挟む事も少なかった。あの空気の読めない時雨が、である。 仲が悪いどころか、むしろその逆寄りだと持っていたのだが…… 何故不機嫌。 …………ん? ………………あれ、もしかして。 「…………時雨」 「………………ンだよ」 今日の時雨は他のみんながいる時から、なんとなく機嫌が悪いようだった。 だから俺は、今この場が一段と気まずく感じる理由もそれだと思っていた。けど……… これって、 「…………怒ってる?」 それも────俺に……?
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