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時雨side────────
「…………怒ってる?」
────は?
眉を寄せ、幾分低い位置から俺を覗き込むようにしてじっと見つめる赤。血溜まりのように毒々しい瞳に、反射した淡い光。それは水面を揺蕩うかのように、何処か不安げに揺れていた。
俺は思わず目を丸くした。
怒……っては、ねェ……ケド。
「俺…………何か、した?」
「別に……」
白瀬の赤い目をじっと見つめれば、コイツも同じようにこっちを覗き込んでくる。今日は、目を逸らさないらしい。
白瀬の手を鷲掴んで携帯を握らせてみるも、掴んだ手が細くて殊の外柔らかいだとか、黄色味を帯びた光の元でも肌の白さがよく分かるだとか、要らない事にばかり気を取られて掴んだ手を離せない。
────お前は何も、してねェよ。
掴んだ白瀬の手首を僅かに握りしめた。
「……何も、してねェ」
そうだ、何もしてない。
お前は……俺に、何も────
松前には名前を呼ばせて、会う度に送ってる癖に。
あのエセ天使には、馬鹿みたいに甘くなる癖に。
笠田や龍心にすら、自分から触りに行く癖に。
あぁ……これは、よく知ってる。
嫉妬だ。それこそ、ただただ醜いだけの。
一方的で、黒くて穢い。
ドロドロ纏わりつくそれは、引き剥がそうとすればするほど昏い感情を尚更広げ、執拗に絡め取ろうとしてくる。
僅かに残った白を塗り潰そうと穢れた手を伸ばし続けてくるそれに、今にも呑み込まれそうだ。
いっそ、呑み込まれてしまえれば、赴くままにしてしまえれば────
楽に、なるだろうか。
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