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そして今現在、先程までの俺にしては有り得ない行動力を発揮したことを絶賛後悔中である。
というのも、
「ハ────?」
目の前には、貴方明らかにカタギじゃないですよねと言いたくなるような佇まいの長身の男。
触れれば切れそうな冷たい空気を漂わせるその男は、フレームのしっかりした外国人顔負けの体格にカラーシャツを纏っており、服を着ていてもその筋肉の豊富さが隠せていない。……いや、多分隠す気もない。
そして、片目をぶった斬るかのように走った傷跡も痛々しいが、それ以上に“ 片目に刀傷 ”という典型的なヤのつくご職業の方にありがちな固定概念が顔を出し、どうしても第一印象がそちらに引っ張られてしまう。
顔立ちこそ時雨と張るほど男前なのだが、逆にそれが彼の冷淡さに拍車をかけているようにも見え、イケメンも大変だなーなんて、背中に冷や汗が流れるのを必死で誤魔化していた。
「…………」
…………どうしよう。
後ろを振り返ると、あちゃー、みたいな顔をした顔見知りの社員さん二人。
そう、どうも今は来客中だったらしい。時雨の部屋に着き俺が扉を開けようと手を伸ばしたはいいものの、扉は自動扉よろしく独りでに開き、見知らぬ男とエンカウント。
そして今に至る。
冷たい目を細め「あぁ、アンタが」と零したかと思えば、打って変わってニッコリと相貌を崩し、人懐っこそうな表情を晒した。
「どーもコンニチハ?別嬪サン」
ここらでは聞かない独特なイントネーション。
放たれる明るい雰囲気とは裏腹に、シャツの隙間から覗いた彼の鎖骨や手首に施された緻密な刺青が目に入り、既に意識が遠のきそうだった。
また不良か、何処も彼処も不良ばっかか、本当に物騒だ。
そしてその“ 別嬪サン ”とはまさか俺の事じゃないだろうな、俺は男だぞ。
「……こらァまた、えらいクールやなァ」
それにしても俺相手にフレンドリーな人だなと思いながらも口が接着剤で貼り付けられたかのように開けず黙っていると、更に目を細めた男の手が俺へと伸びてきた。
しかし、その手が俺へと届くことは無く、その前に背後から肩を押し退けられたらしい男の横から、だいぶ苛立った様子の時雨と目が合った。
「…………はあ"?」
…………地を這うような声が、聞こえた気がした。
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