1837人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「兄貴ぃ……ごめん、ほんとにごめんね」
現在、俺はソファに座っており、理桜は隣の席でズーンと落ち込んでいる。キノコでも栽培し出しそうな勢いだ。
ここはシオンとの初対面以来久しぶりに入るバー、Utopiosphe。
照らされる淡い色の清潔そうなこの空間は、以前と同じく奥の個室。広い割に人も理桜とシオン以外は居ない。
────まず、ここに辿り着くまでの経緯を話したい。
時雨の家に突撃した後、今度は理桜に抗議しに行かなければと思い至った俺は、早速お暇するべく廊下へ片足を踏み出したところ、背後からがっしりと両肩を鷲掴まれてしまった。
ギギギ、とブリキのような音を立てて振り向いた俺に『まァそう急ぐなよ。茶ァくらい飲んでくだろ』とそれはそれは良い笑顔で言い切った時雨は、顔見知りの社員さんら(尚、歳上&強面)を呼びつけるなり『茶菓子』と一言。
『わざわざ来客中にそっちから押し掛けてきたんだ。まさか、すぐに“ 暇くれ ”なんて……言わねェよなァ?』
……そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない訳で。
もちろん嫌と言えるはずも無く、気まずい2人っきりのお茶会に強制参加させられた。ほうじ茶と苺大福は美味しかった。
その後、時雨からは1時間程、そして俺がいると聞きつけた時雨のお母さんからの更にもう1時間程の拘束を経てようやく解放された。
着いてこようとした時雨だったが、今から行くのは理桜のところだと言えば急に用事を思い出したようだ。全く、こういう時だけわかりやすい奴である。
そして、『いざ、理桜のところへ』と思ったはいいものの、理桜は時雨以上に何処にいるかわからなかったため、ダメ元で電話してみたがやはり理桜は出なかった。何故か俺に対して相当お怒りだったらしい理桜が俺を無視した為だ。ちなみにメールの方も当然無視だった。
……とはいえ。
理桜はこうなった以上、日を跨ぐと非っっ常に面倒くさくなる質だ。ていうか、万が一理桜に愛想を尽かされたら俺は本気で泣く自信があるので、そもそも面倒だろうがそうでなかろうが結局はなりふり構わず急ぐ事になっていただろうが。
なので、俺は最終手段だったはずのシオンへ迷わず電話をかけることにした。
最初のコメントを投稿しよう!