悪魔

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────HRが終わって一限の授業が始まっても、白瀬さんは朝から肘を着いて顎を乗せている体制のまま。 寝ているのかとも思ったけど、チラリと見れば蛍光灯や窓から入る光で小さくキラキラと輝く赤色が黒板の方を見つめていた。 教師が当然のように自習を告げて教室を出ていったので、俺はここぞとばかりに席を立ち、今日も白瀬さんへ話しかけに行くことにした。 「し、白瀬さん、おはようございます!その……」 「……」 まずはいつも通り挨拶をしたが、やはり反応は返ってこない。 俺は白瀬さんの机の前に立ち、白瀬さんと何か話がしたくて、くだらない事を沢山話した。 ────その中のどれでもいい、少しでも興味のある内容に、短くてもいいから……いつか、なにか……俺に対しても、時雨さんに反応するみたいに……声を、発して欲しかった。 「…………」 けど、やっぱり白瀬さんは声を出すことはおろか、反応らしい反応を見せてはくれなかった。 ……今日もダメか。 うちのクラスは俺が白瀬さんに話しかけるといつも静かになる。 理由は単純で、万が一白瀬さんが声を出してくれた時、『近くに居たのに聞き逃した』なんて、馬鹿な事になりたくないということだ。 皆、畏怖も抱いてはいるが、強くて綺麗な白瀬さんを好ましくも思っているのだ。 ……まぁ、ナリヤン故に異常に怖がったり、不良特有の謎のピュアさで恥ずかしがって逃げる奴も居ないでもないが……それは少数派と言っていいだろう。 ────皆、時雨さんのようにとまでは言わないが、白瀬さんにいつか認めてもらいたがっていた。 ……本人はそんな俺たちの事も、気にしてはくれないのだが。 1年で同じクラスになってから、そのまま持ち上がりで2年も同じクラスになった今だけど……未だに時雨さんとの会話以外で言葉を発する事の無い白瀬さんに、俺は一年以上も話しかけている。 ────白瀬さんは黙ったまま、キラキラとした虹彩の輝く赤い瞳でこちらをじっと見つめてくる。 教室ではいつも窓際に居るのに日焼けを知らない白い肌は、やっぱり日本人らしくない。こうして見ても、顔立ちは中性的な美人で、雰囲気は冷たく静か。……全くもってこの底辺校には似合わない。
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