悪魔

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…………ただ、一言。 それだけの言葉で、教室はシン────と静寂に包まれた。 俺のお零れで『いつか白瀬さんの言葉が聞けるかもしれない』とか、期待していた連中を中心に固まったのが雰囲気でわかる。 俺が沢山話しかけた中で、返してくれたのは初めの挨拶だけ。 でも……それだけでも、まるで心臓を鷲掴まれたような感覚に陥って、俺の身体中を喜びが物凄い早さで駆け抜けて行ったように感じた。 ……やっぱり顔が顰められているのが少し気になるが、白瀬さんが言葉を返してくれた今、そんなのは些細な事だ。 例え嫌々でも何でも、俺に声を発してくれた。 喋っている時、ずっと、目が合っていた。 ただそれだけで──── 「ッ!!おはようございます!白瀬さんっ」 飛ばしかけた意識を死に物狂いで呼び戻し、なんとか俺は再度挨拶を返す事に成功した。 待っていた、ずっと。1年以上─────··· 喜びを噛み締める俺をじっと見ていた白瀬さんは暫くして、今度こそ俺から視線を外し携帯を取り出してしまった。いつもは皆、小声で雑談する癖に今日はそれも聞こえず静か。 そんな静かな空気の中、俺は一人喋りながらも、もはや放心していた。 自分の垂れ流す声だけが目立っている教室──── 俺が白瀬さんの気分を損ねないうちにと、話し続けていたのをやめて仲間の元へ帰ると、次第に周りの不良達も我に返り話し始めた。……きっとコイツらも放心していたのだろう。 段々と周りの奴らも話に加わってきて少しだけ賑やかになる。 クラスの連中から「やったな!笠田!」と称賛されたり「あ"ー俺も話しかけとけばよかった……クソ」とか羨ましがられたりした。やがて、みんな小声だが白瀬さんの話で盛り上がり出し、俺もその話題を喜んで聞いていた。 そんな中、俺は何となく話題の中心となっている白瀬さんの方を見た。 そこには先程とは違い、携帯を握り締めたままじっと窓の外へ目を向けた白瀬さんの姿。こちらから見えるのは後ろ姿だけだ。 けど──── 一瞬、その背中がどこか寂しそうに見えたのは…… ……気のせい、なんだろうか。
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