変化

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俺達が不毛な言い合いを────いや。俺が一方的な攻撃を受け、挙句に双方(だんま)り状態に陥り困り果てていると、近くにいた笠田が話しかけてくれた事でようやく状況が動いた。 「あの、白瀬さん……!俺、パン沢山あるんでどうぞ!どれがいっすか?」 「……」 おびただしい数のパンを積み上げて食べている笠田。 今更だが彼も時雨率いる族─Red rain─に入っているらしく、屋上での遭遇率が高い人間だったりする。 ここは不良の中でも溜まり場で、普通の不良さん方からは羨望の眼差しで見られるような、大変人気のサボりスポットである。 ……そういう自分もここには割と頻繁に出入りしているが、俺は彼らのように族に入っている訳では無い。 では、何故ここに入れるのか────。 それはひとえに、時雨のお陰(せい)だ。 カリスマ性と喧嘩の強さから、先輩後輩関係なくこの学校を牛耳るこの時雨が許したから。 まぁ、そもそも時雨からの呼び出しさえなければ、俺だって好き好んでこんな所には来ないのだが。……なにせ、俺の『校内で行きたくないスポットランキング☆ベスト5』へ当たり前のようにランクインする場所である。 俺の返答を待っているのか、笠田は何度か口にパンを運んでは咀嚼していた。しかし、それでも緊張で上手く口がまわらず黙りっきりの俺に気を使ってくれたのか、彼は再度『遠慮はしなくていい』と言葉を足してくれている。 「種類も色々あるっすよ。どれでもどうぞ!」 「い………………いら、ない……」 ────笠田のが無くなるでしょ。 ……と、そこまで言葉が続かなかった。もう、最悪の極みである。何が悪いって、言葉を切った位置である。 あぁ……いっその事『笠田のが無くなるから、いらない』って文を逆にしたらよかった。それならまだマシだったのに……! その間にも、俺は表情筋が仕事をしないながらも必死で先を言葉にしようと四苦八苦していた。しかし……なんだかんだいつも言葉を待っていてくれる笠田は、相当ショックを受けたのか今回ばかりは気付いてくれず──── 「あ……そう…っすよね。す、すみません、した……」 こ、こっちがすみませんでした……!! もう、見ているとこれでもかと言うくらい平謝りしたくなる程、しゅんとさせてしまった。 ……善意に善意で返すはずが、自動的に悪意で返す羽目になった。 もう、ほんと勘弁してくれ。 こちらとしては、まるっと善意のはずだったと言うのに、今回は否定(遠慮)から入ったのが仇になった。クソ難しいな。 それにしても、時雨の幼なじみと言うレッテルはそれほど怖いものなのだろうか。 ……いや、俺の顔とか家の事も引っ括めて“俺”と見られてるだろうから、一概に時雨ステッカーのせいとも言えないか。 でもうちの家って元々冷めた顔率高いしなぁ……そこは仕方ないよなぁ。けど一番マシなので弟かな……目も淡い赤色で何もしてなくても優しそうに見えるし…… などと……テンパりすぎて、この状況で全然関係ないだろうという所まで思考が旅立ち始めたところを、川崎先輩の囃し立てるような言葉が俺を強制的に現実へ連れ戻した。 「あーあ。カワイソーに、せっかく勇気出したのになァ……」
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