変化

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川崎先輩が慰めるように笠田の肩を叩きながら、呆れたような視線を向けてくる。 お、俺だって罪悪感くらい…………うん、いや、なんなら罪悪感しかないな。 しかし──良かれと思って遠慮したつもりだったが、そちらの方が傷つける事もあるらしい。 ……生まれてこの方、ちゃんとした友達が居たことのない俺は、そういう細かいところがよくわかっていないようだ。ちなみにその間、笠田はしゅんとしながらも、もそもそとパンを食べ続けていた。 ……もしかして彼は大食いキャラなのか?さっきから既に一人分とは思えない量のパンを胃に収めてるけd……待て。まさか、その目の前のパンは全て笠田の……?いや、流石にそんなわけ────… ……また現実逃避する為のエサに食いつこうとする自分の頭を叱り付け、なんとか笠田に視線を戻した。 あー……ええと、とりあえず、 「……笠田」 「へ…………?は……はい!はい!俺、笠田です!」 「………………チョコ、の」 「!!……はい、白瀬さん!どうぞ白瀬さん!」 とりあえず呼びかければ、何故か『自分は笠田だ』と一生懸命意思表示してくれる笠田。迷った末、チョコレートのパンを指差せば、途端彼は機嫌が治ったのかキラキラした笑顔を振りまき出した。 でも……何故かそのパンを有り得ないくらい沢山くれようとしたので、一つだけ受け取ってあとは押し戻して首を振っておいた。 それでもやっぱり若干悲しい顔をされたが……これはもう、いいだろう。 いや、だって……流石にあんなに要らないでしょ……? ところで笠田、逆に聞きたいんだけど何でこれ全く同じのこんなに沢山あるの……?? 人が沢山いるところでご飯食べるのは緊張する。 それも、なにやら多方向から異常に見られてる気がして、非常に食べ辛い。 けど……今食べないと、後になってもっと食べ辛くなるんだろうなぁ…… 俺が尻込みしてる間、ずっとガン見されるのなんて絶対に嫌だ。以前から、周囲の強い視線を感じることはあった。いつ、と言われると困るが……まぁ、他人といると特にだろうか。……今の彼らのように。 彼らは何故か俺の食べる姿が見たいらしい。 俺が普段、人前で何か飲んだり食べたりする事が稀だからだろうか?希少価値的な……ものは俺にあるわけないか。一瞬、客寄せパンダのような心境になったが……そもそも対象が俺では烏滸がましい話だな。 ……結局、見られている理由も分からず終い。 何かしら別の理由があるのだろうが、不良の考える事なんて俺に分かるはずもない。……ただ分かるのは、こちらを睨みつけるようにして異様な視線を向けてくる不特定多数の厳つい人達の存在だけだ。完全にいじめである。 俺は、つい眉間にシワが寄るのを自覚しながらも、袋を開けて口元へパンを運んだ。
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