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謎の視線を感じる中、俺は意を決してかぷりと、まずは控えめに齧りついた。
────途端、口の中から苦めのカカオの香りが鼻へ抜け、もちもちとした柔らかいパンの食感に、呆気なくノックアウトされてしまう。
なにこれ……!すっごい美味しいんだけど……!!
そのままパクパクと食べ進めれば、中からは甘いチョコレートが顔を出し、全体的な甘さが程よく……もう、ほんと無駄に美味しいんだけどこのパン。
ふと、一際強い視線を感じてそちらを見れば、そこには────やはり、笠田。またそうやって、穴があくほど人の事を……って、今回はまぁ、いいか。
このパンをくれたのは笠田だ。見られるくらい構わないだろう。
……時雨や川崎先輩、その他この場にいる族の人たちまで異様に見てくるのはよく分からないけど。
俺が何となくその場に視線をめぐらせると、目が合いそうになった族の人達に一斉に目を逸らされた。……おい、自分が見られるのは嫌なのか?……まぁ、こっちだってピアスバチバチ髪色色とりどりな不良なんて、そんなに見ていたくないし、別に構わないが。
ちなみに川崎先輩は目が合っても苦笑するだけで、時雨と目が合った際は何故か極上の顰めっ面をプレゼントされた。
……何でだ。
そして再度、笠田に視線を向ければ、バチリと目が合った。
彼は嬉しそうに笑うと、ガツガツと多種のパンを次々に口へ運んでいった。……その間、相変わらずこちらをじっと見つつけているのだが。
なんと言うか……ここまで来ると、この笠田という男からの視線に関しては、気にしても無駄な気がする。
スルー、した方がいいのだろうか。
むしゃ、
……とりあえず、食べている間ガン見され続けるのは正直辛いものがある。俺は止めていた口を動かし、早々に残りを食べ尽くす事にした。
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