違い

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朝も、俺の挨拶にだいぶ遅れてからだったけど返してくれた。でもそれは、今まで1度だってなかった事だ。 時雨さんが白瀬さんに……主に断られる時などやむを得ない時だけだったが、それでも時折返事を貰っているのが羨ましくて仕方がなかった。 白瀬さんにしてはありえない行動────。 そして、今日だけで時雨さん以外に発された言動の多さに驚かずにはいられなかった。 川崎さんも目を見張って驚き、時雨さんは自分以外に反応を示した白瀬さんのことを少し恨めしそうに睨んでいた。 時雨さんはいつもとは逆で、自分の言葉にだけ答えなかった白瀬さんに舌打ちをしていた。 ……その間俺はと言えば、白瀬さんの機嫌が悪くならないか心配で遠くから見ていた。 「…………時、雨」 白瀬さんは時雨さんの言葉に足を止めて振り返り、小さく名前を呼んだ。 が…… 「……………また」 そう呟くと、彼はアッサリ扉を出て行ってしまった。 バタン──という音だけが響き、時雨さん本人を含めたこの場の誰もが、暫くは何も言葉が発せなかった。 ────謎の静寂と困惑を残し、屋上をひとり出て行った白瀬さんの耳が、僅かに赤かった事実に気が付けたのは……俺だけだったのだろうか。 俺だけ、だったらいいな…… 白瀬さんから貰った初めてのチョコレートは、気付いた時には溶けて柔らかくなってしまっていた。 ────何故か、俺の体の奥で白瀬さんに対しての独占欲が燻る。 それは辛うじて自覚できるような、しかし自分が尊敬する時雨さんを差し置いて抱くには、明確な理由もない、ほんの微かなものだった。 けど、馬鹿な俺では生半可に考えても分かるはずもない。 だから────今は、手の中の包みを壊さないよう優しく握り、ただただ喜びの余韻に浸る事しか出来なかった。
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