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スグリside──────── 何故か不良でもないのに怖がられて、避けられる日々。 俺は駆け下りていた速度を緩め、階下へと続く階段をゆっくりと降りる。 時雨はどうしてつまらない自分と話したがるのだろうか────。 時雨のことは、嫌いじゃない。 思えば、時雨は出会った時からずっと俺の事を怖がらなかった。あぁでも……時雨って初めからちょっと変わった奴だったから、やっぱり例外なのかな。 彼自身、事ある毎に意地の悪いことを言ってきたり、まだほんの子供なのが信じられないほど睨み付ける視線が怖かったし。 俺は時雨が子供の時……不良になる前から怖かった。 だから、もちろん普通の不良も怖かった。 そんな俺が、こんな不良の巣窟と名高い『夜桜(よざくら)高校』に来ることになったのだって……さして珍しくもない、時雨の我儘のせいだった。 *** 1年程前────⋯ 『ぼ、坊!待ってくんさい……っ!頼んます!』 『………………』 『お願いしますッ!俺ら、もう坊だけが頼りなんです!』 『(かしら)が……頭が、怖くて怖くて……ッ』 『………………』 まるでヤのつくご職業のような人達。 彼らは昔からお隣の時雨家で働いている人達で、顔見知りだった。 事の発端は時雨────の、ご家族。 ……らしい。よくは知らない。 路上で会うなり唐突にされたのは時雨が通う事になったらしい高校の話だった。 そして、またしても時雨の我儘のお陰で────俺が直前まで行こうとしていた近所の学校を諦め、何駅か向こうにある夜桜という高校に時雨と通って欲しい、とお願いされてしまったのだ。もうほんとバカ。なんだそれ。 仮に、夜桜が普通の高校だと言うのならまだマシだった。 しかしそこはある意味有名で、普通の人からしたら全く誇れないような夥しい数の不良が蔓延る魔の巣窟と化している学校である。 友達がおらず噂話に疎い俺でも一般常識として知っていたくらいなのだから、その知名度は言うまでもなかった。良い悪いは置いといて。 『そ、そこをなんとか…!』 『か、頭がもう待てねって……っ』 『あぁ……やっぱ俺ら、消されるのか……?』 『ひ……っ、てめ、め、滅多なこと言うんじゃねェよ!俺ァまだ沈みたくねェぞ……ッ』 俺だって初めは『いくら時雨の我儘とは言え、何でわざわざそんな所に自分まで』と心臓バクバク言わせて困惑してたし、時雨ホントいい加減にしろよと不機嫌にさえなっていた。けど、あまりにも必死な形相で青ざめる大人たちに気圧され始めてしまったのだ。 消されるって誰に? 沈みたくないって何処に? …………もしかしたら本当に何かあるのでは? そう思わされざるを得ない不穏な空気と、リアルな焦燥感が伝わってきて、他人事だったのが嘘のように途端怖くなった。 ……ねぇ、本気で言ってる? 顔見知りの彼らにもし何かあれば、寝覚めが悪いどころの話じゃない。 俺まで顔を真っ青にして想像を膨らませ、必死に考えた結果──── 『…………………ゎ…っ…』 『?ど、どうしたんで……坊?』 『………………わか、った』 『ほ、ホントで?!』 『白瀬の坊……ッ!!ありがてェ!!』 『す、直ぐに頭に……いや若に!!』 『…………』 物凄い顔でにじり寄ってきた涙目をしでも尚怖いおじさんやお兄さん達にお礼を言われ、遠い目で何度も頷いたあの時のことはいまだ容易く脳裏に浮かぶ。 ……なんせ、時雨の家に出入りしている人達は、総じて強面率が高いのだ。
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