ミス

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時雨side──────── 時刻は20時。 溜まり場になっているこの場所は、とっくに喫茶店からバーに変わっている。 この時間は昼間の喫茶店に比べてかなり人が減り、バーということもあってか夜は静かだ。川崎はこの店の子供で店員をしているが、今は暇らしく仕事着のまま奥の溜まり場スペースで仲間と喋っていた。 入口から入って一番奥。区切られたこの部屋へは防音の扉がついており、多少騒いだくらいでは他の客の迷惑にもならない。 俺は川崎の近くに移動し、最近“様子がおかしい奴”の隣に座った。笠田も近くで見守っているが、やはりどこか心配そうな顔だ。 「白瀬さん……まだかなぁ」 そう呟いて目に涙を溜めたかと思えば、ポロリと零す小柄な奴。中三にもなって情けない、とは言わない。こいつがこの1年、人一倍辛そうだったのを知っている。 ……本格的に可哀想なことになってきたな。 虚ろな目をしている龍心(りゅうしん)の淡いピンク色の髪を撫でてやる。 「…………はぁ。仕方ねーなァ」 俺はため息をついて携帯を出す。 そんな俺に不安げな視線を向け、首を傾げている龍心に「心配すんな」とまた撫でてやりつつも携帯をいじり、目的の名前を見つけ電話をかける。 「ま、これはカワイソーだよなぁ……で、白瀬に連絡か?」 「出ても喋るかわかんねェけどな」 携帯を耳に当てたまま、川崎にそう返す。白瀬は基本喋らねェから。……何故か最近は俺以外にも話すようになりやがったけど。 ……それはそれでムカつく。 このピンク髪はよく幹部の笠田に着いてきて、溜まり場のバーに入り浸るあいつの弟。初めこそ幹部しか入れない溜まり場に来れてはしゃいでいたが今では見る影もなく、特に今年の4月を過ぎた頃からは見ていると気の毒でならなかった。 こいつはたまたま街で不良に絡まれる一般人を助けていたらしい白瀬を見かけてから、あいつを慕っている。笠田曰く『俺より背小さいのにめっちゃ強くて、キレーでカッコイイ人見つけた!』とか言って報告してきたらしい。 その後、詳しく教えてもらった特徴が白瀬と合致したようで、笠田自身が同じクラスだと言うことや笠田が入ってる族のトップ()の幼馴染みだと言うことを教えてやるやいなや、即答で俺も入るとか言いだしてウザイくらい付きまとって頼み込んで来たらしい。 でもいざ入ってみれば、Red rainの幹部から聞く『いつも無表情な人』や『言葉を交わせるのは幼馴染みの時雨さんだけ』という言葉、そして極めつけに『俺は未だに会えた事がない』という他校の不良の話を聞いて愕然としたようだ。 しかも、白瀬の学校外の行動はよく知られていない。 追いかけすぎるとありえない速度で逃げるし、そもそも深追いして嫌われたい奴もいないのだから、皆白瀬のプライベートは知らないし、干渉しない。 俺だって、つい付きまとい過ぎた頃があったが…… 『っ………過干渉』 と、過去一で盛大に顔を顰められ、柄にもなくショックを受けた。あれには流石に執拗い自覚のある俺もかなり堪えたのか、あの時の白瀬の顔を思い出すと未だに軽く落ち込める。
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