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今の時刻は18時を過ぎた頃。 夕食を食べるかと冷蔵庫を開けて気が付く。 「…………」 何も無い。 そう言えば今日は買い忘れてしまったのだったか。 一人ここで暮らすようになってから1年、俺の食事は専らコンビニやスーパーなんかで目に付いたものをその時々で適当に買ったもの。あ………あと、最近はたまにパン。 家では食事を作ってくれる人が居たし、その食事も部屋に持ってきてくれていた。使用人が居るような家で育ち、しかも部屋に引きこもりがちだった俺は、もちろん料理をしたことなんてほとんど無い。家庭科などの授業で知識としてあるにはあるが、プライベートで実施したことは無いと言っていい。 幸い俺は適当なものでも味気ないだとか、ましてや不味いだとかは特に思った事も無いので問題ない。 それに自分で望んだ一人暮らしをさせて貰ってるのだ。もちろん食生活が乱れようが不満なんてものもない。 しかし、残念ながらこのマンションの近くにコンビニは無い。とはいえ、駅の方に少し歩けばあるので、忘れた時はだいたいそこへ買いに行く。 いつもは学校のすぐ近くにあるコンビニで買ってくるのだが、今日は忘れてしまった。 「……」 ……せっかくお風呂に入ったけど仕方がない。 俺は必要なものをポケットに入れ靴を履き、玄関のノブを握ったところで一応自分の格好をチラリと確認した。1年の時に着古して少しよれた焦茶のカッターシャツに、ゆったりとした黒のテーパード。うん、少しコンビニに行くだけだし問題無いな。 「良かった。パジャマが、パジャマじゃなくて」 俺は若干意味のわからないことを呟きながら部屋の外へ出て、エレベーターの方へと歩き出した。 ちなみに俺はガチ寝するようなパジャマでは無く部屋着のような格好で寝る派だ。本当はちゃんとしたパジャマの方が良いんだろうが……俺がこう言ううっかりを頻繁にしてしまう事もあり、その度にわざわざ着替えるのも面倒なので今のところ特に変える気もない。 マンションを出る時、帰ってきた時と同様俺はフロントのお姉さんや警備のお兄さんに会釈だけして外へ出た。 彼らは流石にプロで、俺みたいなのにも笑顔で会釈を返してくれる優秀な人達だ。今まで一度たりともあからさまに嫌な顔をされたことは無い。 もちろん建前どころか、文字通り営業スマイルなのだが、俺は心做しかご機嫌でマンションの敷地を出た。 目的のコンビニがあるのは駅方面。 俺のマンションは夜桜高校とその駅との間辺りにある為、学校とは反対方向へと歩いていく。 俺の住居は比較的駅側に近く、いつも寄ってから帰る高校近くのコンビニまで歩くより近いのだ。どこの店も少し遠く、まぁまぁ不便ではあるが、その分不良の巣窟のような高校が二つも近くにあるというのに比較的治安が良いし、パッと見も典型的な静かな住宅街って感じだから個人的には気に入っている。 外へ出て暫く歩くと駅に近づいた事により、景色は住宅街から様々な店が建ち並ぶ商店街に変わっていく。まだ夕方だからか、子供から大人まで年齢問わず人が多い。 「ギャハハッ」 「ぶははッマジだって!」 「バッカアイツが2日で10人食ったは絶てェ嘘!お前──」 何処ぞの不良の下品な会話が耳に入るが、基本的に治安の良くない駅前では珍しくもない。それも、この近辺には不良の巣窟と言われる程に物騒な高校が2つあるのだが、そのどちらの最寄り駅もここなのだ。 ……俺だってこの街の不良率は異常だとは思うが、それが駅前に集まるのは自然な事だと思う。 「────あの、すみません」 そんなことを考えていた時、不意に背後から声をかけられた。
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