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声をかけられて振り返ると、そこには白髪の長身男性が立っていた。
一瞬不良かと思って身構えたが、彼の瞳の色は淡い金色で顔立ちも彫りが深く、外見からして明らかに外人さんだった為少しだけ気が抜けた。
……しかしここは不良が蔓延る駅前である。
正直、対人スキルや交友経験共にそこらの子供をも下回っているであろう俺が、初対面の人間をパッと目だけで判断するのは自殺行為でしかない。
少し聞いただけだが、彼の発音は純日本人のものとも大した遜色は無い。顔立ちだけ見ると純粋な外国人のように見えるが、もしかしたらハーフなのかもしれない。もしくは、日本に住み出して長い人なのかも。
歳は……20代前半だろうか?
落ち着いてはいるが若々しい涼やかな雰囲気からして、大学生くらいに見える。
いや……それとももっと上だろうか?
外国人然とした彼の容姿ではあまり参考にならないが、骨格もかなりしっかりしているし、視覚的にはだいぶ大人っぽい。
「呼び止めてしまってすみません……」
本当に申し訳なさそうに苦笑して謝る彼。
俺はそこでようやく、完全に彼が不良では無いという判断ができた。……少なくとも俺の知ってる不良は、こんな簡単に
、しかも丁寧に謝ったりはしない。
彼の言葉に首を振る事で気にしていない意を示すと、彼はそんな俺を見て穏やかに微笑んだ。うん、やっぱり違うな。
「“Utopiosphere”というバーに行きたいんですが、知っていますか?」
────Utopiosphere。
誰だったか……時雨か川崎先輩が言ってた気がする。
過去、その話を聞いて俺も通りすがりに『ここがそうか』くらいに看板を流し見たことはあるが、割とすぐそこだ。
……近くまでは来たけど、迷っちゃったのか。
そこなら俺でも場所がわかるので頷くと「案内して貰えませんか……?」と眉を下げて聞かれてしまった。……逆に俺でいいのか一瞬不安になったが、あちらから頼んで来たので問題ないのだろう。でもまぁ……自分で言うのもなんだが、俺みたいなのに道案内を頼むなんて変わった人だ。
どちらにせよ、口で説明することが難しい。
俺はまたひとつ頷いて了承の意を伝え、彼から視線を外して歩き出した。
***
あ……大丈夫かな?
あの人、絡まれないでちゃんと着いて来てるかな。
暫く先行して歩いていたが、普通の外人さんに普通に話しかけられて、少しあわててしまっていた為忘れていた。この辺りは治安が悪く、今のような時間からは特に不良が多くなるのだ。
彼は身なりもいいし、話さなければ日本語に疎いお金持ちの外国人観光客だと思われてもおかしくない。
自分が気が付かない間に何処かで引っかかって、後方でカモられてやしないだろうか……と、後ろを振り返って確認した。
「どうかしましたか?」
「…………」
とりあえず問題なさそうなので、俺は彼の言葉に首を振るとまた視線を前に戻し、歩き始めた。
逆に、思いの他すぐ近くに居てびっくりしたくらいだ。
不良が蔓延る街が故に、あちこちから常時熱い視線を送られているというのに、彼は存外気にした風もなく穏やかなまま。
……ケロッとしているし、これなら本当に大丈夫だろう。
正直、その精神力が羨ましいくらいである。
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