出会い

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駅の直ぐ近くまで来ると、白を基調とした店の外観が見えてきた。 看板は扉の上に取り付けられており、灰色の背景に“Utopiosphere”と白の文字でシンプルに描かれている。 ……何事もなく目的地に着いたが、逆に知り合いと落ち合う約束の時間より大分早く着いてしまったようで、白髪の彼にお礼に一杯奢らせて欲しいと願い出られてしまった。 特に遠い場所でもなかったし、道案内くらいでお礼なんて要らないと断ったのだが……酷く悲しそうな顔をされてしまい、俺は結果的に罪悪感に負けて成り行きでお言葉に甘えさせてもらう形となった。……デジャブか?屋上でも笠田とこんなやり取りしたような気がするんだが。 俺は似たような事を繰り返してやしないだろうか。 カランカラン────··· 軽やかなベルの音が店内に響くが、開店したばかりなのか客らしい人間はまだ誰もいなかった。壁に吊るされた変わった形をした黒色の時計を見ると、7時を丁度過ぎた頃だった。 時刻を確認したあと俺が軽く店内を見回していると、カウンターの奥からこれまた西洋然とした魅力的な初老の男性が出てきた。そのロマンスなおじ様は白髪の彼を見つけるや否や目を見開き、一瞬穏やかに微笑むと一つお辞儀をして彼の後ろに着いてカウンターに出てきた若い店員に案内を指示している。 ……若い頃はイケメンだったんだろうなぁ。 そう感じさせる、非常に良い歳の重ね方をしているおじ様。 普通のそこら辺にいるおじさんではなく、おじって感じの、エレガントな雰囲気があるのだ。 ……グレーヘアをふんわりと、程よく撫で付けているからだろうか?それとも、このシックでオシャレな店にいるからだろうか。 ふと、そんなことを考えていると例のおじ様と目が合ってしまった。しかし、彼は不躾に観察してしまっていた俺に対し顔を引きつらせるでも無く、優しく微笑んでくれた。それは俺にとって予想外な事で……我に返って直ぐ、あわてて俺は軽く頭を下げた。 ……やっぱり、こんな風に初対面で俺に微笑んでくれる人なんてなかなか居なくて……この白髪男性との初対面時同様、嬉しくはあるんだが少し、戸惑ってしまう。 さっき指示されていた若い店員が、俺たちを席に案内する為に「お待ちしておりました。こちらへ」と先導して歩き出し、その後に白髪の彼も続いた。 “お待ちしておりました”──── ここは、彼の知り合いの店なのだろうか?それとも、ただの予約か。初老の男性の反応を見るに、知り合いらしく感じたのだが……気の所為だろうか。 ここまでの道のりとは逆に、今度は俺の前を歩く彼。 純白のシャツの袖を何度か折り曲げ、それよりも少し暗いグレーっぽい白のスラックスにきっちりと裾を仕舞っている彼は西洋風の顔立ちが相まって大人っぽく、服装のテイストもこの店の雰囲気によく似合っている。 例えるなら────美しい銀世界の中に希少なシマエナガが、そっと佇んでいるかのような自然さだろうか。 逆に。 今の俺で例えると……そんな真っ白な雪が振り積もった美しい景色の中、そこら辺にいる頭の悪い烏が一羽紛れ込んだような────いや、やめておこう。 自分を烏として想像すると、どうしても頭の悪そうな表情になってしまって絵にならない。 ……しかも、なんか……ホクロみたいだ。 うん、やめだ、やめやめ。
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