出会い

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若い店員に案内されたのは、少し入り組んだような通路の奥、店内入口からは恐らくー番遠いであろう個室。そこは厚めの壁で仕切られており、外にある他の席から中の様子は伺えない切り離されたような空間だった。 しかし決して狭くは無く、むしろ大人数でも平気そうだ。 ……例えるなら、一般的な教室の半分程度の広さだろうか。 案内の終わった店員がお辞儀をして出ていくと、白髪の彼に席へ座るよう勧められ、大人しく座る。 暫くして店員が注文を聞きに来ると、彼はメニューを開き「ジンジャーエールの辛口を一つと……」と呟き、俺を見た。が……残念ながら俺はまだ決まっていなかった。 ……やばい、どこからどこまでが酒かわかんないんだけど、俺。 本来、俺は口で注文しなければならないタイプの店に来ることはない。基本的に品物を持ってレジに行き、話せなくても成立するような店しか利用しないのだ。……いや、そうせざるを得なかったとも言う。 それに……今一緒に居るのは初対面である白髪の彼である。 家族や時雨に引き摺られて飲食店に来た時であれば、彼らは俺の事をある程度理解してくれているのか、メニューを開いて聞いてくれたり勝手に頼んでくれたりする。 しかし……それをお礼をしてくれると言う、しかも初対面の彼に求めることなど到底出来ない。 ……だと言うのに、悲しいかな。話すのが難しいからと言って、メニューをただ無言で指さして店員さんに伝えるのも人としてどうなのか……いや、今答えていない状況の方が人として……と1人内心悶々している訳である。 ……そして、テンパりすぎて文字が上手く頭の中に入ってこず、頼むものも決められていないというこの現状も最悪である。 その間、いつまでも注文をしない俺を不審に思ったのか、じっと見ていた。そして、彼はなにを思ったのか「あぁ……」と納得するように呟くと、「甘いものは……」と伺うように俺に視線を寄越した。甘いもの、は好きだけど……。 結局、気を遣わせてしまった。 けど────それもまた、おかしな話だった。 こんな気遣いは母と1番上の兄、あとは弟にしかされた事の無い気配りだった。ちなみに、2番目の兄と時雨は適当に頼んでくれるタイプである。 でも、何が一番おかしいって……彼が俺と初対面だと言うことだ。 彼は不良では無いようだから睨んでこそ来ないが、それなら尚更、怯えたり不自然に視線を逸らしたり、頬を引きつらせるなり……反応のない人間でも顔色を悪くするくらい、するだろう普通。ましてや笑ってこっちを気遣ったりとか、できるわけが無い。 もう一度言うけど、初対面なんだぞ?俺の顔と。 ……だって今まで、不良では無い普通の人間からの反応は、大体がそう言ったものだった。
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