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彼は不良か?いや違う。なら普通?それも違う。
今の俺の中には彼をカテゴライズ出来る区分が無く、『それ以外の“何か”』という何ともざっくりしたものとしか認識出来ない。
今まで会ったことの無いタイプの人だ。
一人、ぱちぱちと瞬いて居れば、彼にクスりと控えめに笑われてしまった。
「……ふふ、はい。では、彼にはベリージュースをお願いします。甘くしてくださいね」
「…………」
ほら……また、おかしなことが起きている。
いや、確かに甘いものは好きだ。けど、頷いても居ないのに俺の答えをまるで知っているかのように注文を進めた彼。
どうして分かったんだろう……顔に出ていた?
いや……俺の場合、それも無さそうだ。
幼馴染である時雨や一つ下の弟の理桜だって、俺の言いたいことを表情だけで正確に察するとか、そんな事は出来ない。比べて、彼と俺は初対面。
……有り得ないな。
だけど────まるで、俺の考えている事をわかってるかのようにされるのが、なんだか不思議だ。
しかし、もし本当にそうだとしたら……俺は勝手に心を読まれている、という事になる。それは……なんというか、普通なら不快に思ってもおかしくないだろう。
だけど、実際は少しも煩わしいとは思えなかった。むしろ誤解される心配もないためか安心感があって、心地良い気さえする。
暫くして飲み物が届けられると、そこからは特に何を話すでもなく時間は過ぎていく。
……バーで二人、お互いにアルコールの入っていない飲み物を飲んでいるこの状況。
それだけでも軽くなにこれ状態だと言うのに、白髪の彼が時折話しかけてくれるのに俺は大した反応を返せないでいた。
……とはいえ、いつもなら気まずくて申し訳無くなるはずの状況なのに、今日はそう思えなかった。
先程から彼は俺が何も言えなくても、まるで俺が返事をしているかのように会話を続行するのだ。
特に顔にも出ていないはずなのに、俺の“無い反応”を見て、当たり前のように話が進んでいった。
……しかも。
それは、どれもこれも見当違いなものでは無く、当てずっぽうでないのは明らかだった。それがまた、俺は不思議で仕方がなかった。
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