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観察しつつ反応を伺っていると、少年はこちらをじっと見つめ、僅かに肩の力を抜き首を振った。その際、当初から彼が緑色の空気に、一瞬淡い黄緑色が混じった。 そして、それを私が見逃す筈もなかった。 色を認識した私は経験から疑うまでもなく、彼が首を振ったのはこちらの謝罪を拒絶するという意味ではなく、“構わない”や“気にしていない”といったニュアンスだと判断した。 けれど────··· ……彼の感情()は、ずっと緑色(恐れ)なんだね。 何らかの事柄に対して常に恐れを感じているらしい彼は、未だにこちらを警戒しているのか、色を見るまでもなく体の端々に緊張が続いている。……これほど恐れの感情に呑まれているのだ。恐らく、先程無言だったのも、咄嗟のことで声が出せなかったのではないだろうか。 「“Utopiosphere(ユートピア)”というバーに行きたいんですが、知っていますか?」 知人の経営するUtopiosphere。 彼に案内を頼もうとしている目的地。それは確かに初めて行く場所ではあるが、正直に言うと道は事前に把握している。つまり、彼とのこのやり取りは本来、全く無駄なものだった。 そして、黙ってこちらを見つめていた赤い瞳が伏せられてから暫く。少年は場所がわかるのか小さく頷いたので、案内して貰えないかと眉を下げて願い出た。……彼に効果があるとは思えないが。 「…………」 ……やはり、見たところ効果は今ひとつと言ったところだろうか。 少年は眉間に皺を寄せると私をじっと見つめる。 どうやら考えているようだった。 そして、やはり暫くすると先程同様ひとつ頷いて了承の意を示す。 ……それほど嫌そうな顔をしておいて、結局は頷いてくれる彼を内心で意外に思いながらも、ありがとうございます、と私はできる限り優しげな声色で返事をした。 しかし、あれだけ穴が空くほど私を見ていた割に、彼はあっさりと視線を外して歩き出してしまう。……難しいな。 何も言わず背を向けた彼は、結局ここまで1度も声を発さなかった。 ……寡黙な子なのだろうか、今のところ彼は頷く事しかしていない。
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