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白を基調とした店が見えてくると、その看板には目的である“Utopiosphere”の文字。彼の足は入口付近で止まり、こちらを振り返って店の扉を指した。 そして……彼はそこからはこちらに興味を示す事も無く、あろう事かさっさと踵を返して去っていこうとするものだから、柄にもなく内心で慌てながら引き止めた。……もちろん優しげな表情は崩していない。 『約束している時間より大分早く着いてしまった、お礼に一杯奢らせて欲しい』そんな、まるで苦し紛れの言葉でお茶に誘ってみたのだが……やはり、首振って断られてしまった。 ……今までこんな事は無かった。男でも女でも、私が誘えば喜んで着いてくるのが普通で、そのお陰で仕事がスムーズに行く事も多々あった。 誘いを断られ、軽くショックを受けながらも、珍しく自分の容姿に靡かない彼を逃がすまいと、今度は態とらしい悲しげな顔を作り上げ彼の罪悪感を煽った。 もしここに幹部級の仕事仲間が居れば、美しい彼には哀れみの目が向けられ、私には呆れた様な視線が贈られただろう。 そして…… 結果は、私の望む通りになった。 やはり彼はなんだかんだと優しい子らしく、“戸惑い”を滲ませつつも頷いてくれたのだ。 店内に入ると、カウンター奥から仕事の知り合いが出てきた。私を見つけると1つお辞儀をし、店員に私達を案内するよう指示を出している。 ふと、仕事仲間である初老の彼が私の隣……斜め下に視線を移して微笑んだのを見て、私はその視線の先を追った。予想通り、仕事仲間の視線は自分の隣に立つ少年に向けられていたが……当の少年の方はと言えば、意外な事に仕事仲間に対して頭を軽く下げていた。そんな、思ったよりも礼儀正しい質らしい彼から未だ滲み出るのは…… 継続する恐れの感情────。 他者に異様なまでの気高さを感じさせる彼は…… 一体、何を恐れるのだろう。 指示された若い店員の案内の後を着いていく。 ……先程、案内役の店員が彼を見た瞬間顔を強ばらせていたが、彼はまるで『またか』とでも言いたげに小さく息をつき瞼を伏せただけで、特段気にすることは無かった。 店員に連れてこられたのは店内の奥、壁で仕切られ外の他席からは見えない様に隠された空間。 案内の終わった店員が緊張した面持ちで頭を下げ、個室を出て行くと私は彼に席へ座るよう勧めた。
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