13人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
時間が、止まった。
大地さんは目を見開いたまま、動かなくなってしまった。
私もこれ以上何も言えなくなって、視線を落とす。
二人の間に流れるジャズの音が、やけに大きく聞こえた。
やがて、
「はぁぁ…」
長めのため息が聞こえて顔を上げると、大地さんが片手で髪の毛をくしゃっと掴んでいた。
「大地さん?」
ひょっとして、嫌な気持ちにさせてしまったのだろうか。
私と目が合うと、大地さんは気まずそうな表情を見せた。
「いや、女の子の方からこんなこと言わせるなんて、俺、ダサすぎでしょ…」
「?」
首を傾げる私に、大地さんはぶつぶつと続ける。
「ちょっとずつ距離を縮めようとか、まずはいいお兄ちゃんキャラで行こうとか、いろいろ考えてたんだよ、俺も。でも、女々しいよな、そういう計算」
「え?それってどういう…?」
言葉の意味を測りかねていると、大地さんが両手を伸ばしてきた。
がっしりと大きな手で両肩を掴まれて、私の胸がドキドキと高鳴る。
「これからは恋人として甘えてよ、って意味」
大地さんの柔らかな笑顔と声が、身体の中にすうっと入り込んでくる。
私は泣きそうになるのを堪えながら、こくこくと何度も頷いた。
辺りはしんと静かなのに、心は高揚感に包まれる。そんな唯一無二の夜だった。
ずっとこの夜の中にいたかった。
このまま朝が来なければいいのに、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!