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深夜、あなたの車の中で
「お兄ちゃんを呼んで!」
「え、でも、もう遅いし…」
「いいから!呼べば迎えに来てくれるって」
私に自分のスマホを押し付けると、亜美はカウンターに突っ伏して眠り込んでしまった。
深夜0時のイタリアンバル。
間接照明が灯る店内は居心地がいいけれど、長居しすぎて何だか気怠い。
グラスの中のサングリアは、氷が溶けてすっかり薄まってしまっている。
終電には走ればまだ間に合いそう…いや、亜美がこんな状態じゃ無理か。
20歳になりたての私たち。まだお酒は飲み慣れていない。
私はため息を吐くと、大人しく亜美のお兄さん・大地さんに電話することにした。
ツーコールの後に、低くて無愛想な声が聞こえた。
『亜美?』
「あ、えっと、小田結衣です」
『ああ、結衣ちゃん』
相手が私だと気付くと、大地さんは声のトーンを和らげた。その優しい声音にドキッとする。
「今、亜美と一緒に飲んでたんですけど、亜美、酔って寝ちゃって…」
『分かった。迎えに行くから、店の場所教えてくれる?』
無事に通話を終えて、スマホを亜美の傍らに置く。
「亜美。大地さん、来てくれるって」
声を掛けたけれど、亜美はピクリとも動かなかった。
大地さんには何度か会ったことがある。
私たちの3歳年上で、ガソリンスタンドで働いているそうだ。
一見怖そうな見た目でそんなに喋る方でもないけれど、面倒見がよくて優しい人だと思う。
…私はそんな大地さんに、密かに片思いしていた。
会計を済ませた私は、ハンドミラーを覗くとリップを入念に付け直した。
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