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――時は流れ、十三度目の冬。ボクは美穂さんの膝の上で、全身を震わせ荒い息を上げている。
「よく頑張ったね。もう直ぐ楽になるからね。今までありがとう……」
美穂さんの温かい涙が頬に落ちる。施設職員の美穂さんは、いつも側にいてくれた。右耳と右目を失った醜いボクでも、他の仲間と分け隔てなく大切にしてくれた。ボクこそ、ありがとう。
ここで次郎爺さんや多くの仲間を見送って、今は「終焉」の意味が解る。ボクにとってのそれが、きっと今なのだろう。
キミに会えなくなったのは、ボクのアピールが下手だったからかな?今はもう駆け回る力は無いけれど、シッポくらいは未だ振れるよ。
上手に振れたら、あの桜が咲いてくれるかな。春が来ないとやっぱりダメかな。
『フク、迎えに来たよ。会いたかったよ』
天使が舞い降りる様に、突然ボクの前に沙羅ちゃんが現れた。……不思議だ。ボクの姿はこんなにも変わってしまったのに、キミはあの頃のままだね。笑顔が可愛くて、愛おしくて、とても眩しい。
ボクも会いたかった。ずっとキミを待っていたよ。
――ああ、綺麗だな。
雪景色に咲くピンクの花弁。
真っ白な風に乗ってフワリフワリと
とても、綺麗だね……
END
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