ボクとキミと、桜の記憶

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「フク!またこんな所で排泄しやがって!」  あれから数日が過ぎた夜、赤い顔をしたパパがボクに怒鳴る。  沙羅ちゃん達が家を出てからパパの様子がおかしい。昼間からお酒を呑んでいる日が増え、いつも不機嫌な顔をしてボクに当たり散らす。優しいパパが赤鬼に(へん)()してしまうのは、お酒が悪さをしているからに違いない。この臭いは大嫌いだ。 「めんどくせーなっ!このクソ犬がっ!」 ごめんなさい!でもパパが散歩に連れ出してくれないから。それに、昨日から何も食べていない。お腹空いたよ。ご飯を頂戴! 「煩い!吠えるな!……チッ。あいつら、金の掛かる厄介モノを俺に押し付けやがって!なんで俺だけが責められなきゃいけないんだ。今まで家族のためにどれだけ俺が……」 ねーねーパパ。お腹空いたよ。 「煩い!沙羅がいなきゃオマエはもう用済みなんだ!野良犬にしてやる!」 「キャン!」 痛い!乱暴にしないで!パパどうしちゃったの?怖いよぉ……  パパはボクを外へと連れ出した。車が走るのは山道。辺りは何も無い。あるのは何処までも続く森と暗闇だけ。  やがてパパはボクを車から降ろし、草が生い茂る窪みへと放り投げた。 ここはどこ?もしかして、やっと散歩に連れて来てくれたの? 「悪いな。恨むなら、おまえを置いて行ったあいつらを恨めよ」 パパ行っちゃうの?ヤダよ!こんな所に置いて行かないで!  その背中を追いかけようとするけれど、深い草が足に絡みついて上手く走れない。遠くへ消えていく明かり。 パパ!お願い!ボクを置いて行かないで! 「クウーン……クウーン……」 怖いよ……怖いよ……   ボクの叫び声は不気味な闇夜に木霊した。
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