ボクとキミと、桜の記憶

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 山中を歩き回り、草や虫や鳥の死骸を食べ、どれだけ一人ぼっちの夜を明かしたのだろう。足に何か刺さって痛いし、目が見えない。体中が痛痒くて、(カラス)に突かれたところから変な臭いがする。お腹空いたよぉ。もう、歩けない。 錆びた廃屋の陰で蹲る。 雨の音だ…… 寒いよ…… 沙羅ちゃん…… 「美穂さん!見つけた!きっと通報を受けた子ですよ」 「怪我をした狸……じゃない。この子、トイプードルよ!伸びた毛が塊になって全身を覆ってる。……酷い傷。右耳と右目は何かに咬まれた痕かしら。痩せ細って皮膚病もある。急いで施設へ連れて行きましょう」 「……この状態で助かりますかね」 「分からない。この子の生命力を信じましょう」 人間の声がする。誰……もしかして、沙羅ちゃんが探しに来てくれたの?   重い瞼を開くと、黄色い傘がぼやけて見えた――。 「良かった。熱が下がって来た」 「炎症が酷いから、もう暫くは抗生剤の点滴を続けた方が良さそうね」 目を覚ますと、二人の女性がボクを見つめていた。 誰だろう……ここはどこ? 丸坊主にされた体には白い布が巻かれ、全身の痛みが幾分楽になっている。 「もう大丈夫よ。安心して。ここは安全な場所だから」  雨の中で聞いた声だ。柔らかくて心地の良い声。それに混じって、犬や猫、色々な鳴き声がする。  ふと感じた視線。気怠い体を持ち上げゲージの外を覗き込むと、少し離れた場所から一匹の柴犬がボクを見ている。後ろ足に怪我をしているのか、下半身を床にだらりと垂らし、前足だけで座っている様子だ。
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