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大好きな沙羅ちゃん。ボクがキミと初めて出会ったのは、桃色の花弁が麗らかな風に乗り、優美に舞い踊る十三年前の春――
「可愛い~。パパ、ママ、決めた!私この子が良い、この茶色の子にする!」
硝子の向こう側に立つ女の子。ボクを見つめる大きな目を輝かせ、高揚の声を上げた。
「トイプードルかぁ。結構いい値段するな」
「そうね、人気の犬種だから。それより沙羅、ペットを飼うのは良いけど、あなた本当にちゃんとお世話が出来るの?」
「絶対する!可愛がる!だからお願い、この子を買って。ねっねっ」
食い入るように見ていた彼女は柏手を打ち、隣に並ぶ大人に擦り寄った。
どうやら彼女はボクを気に入ってくれたらしい。人間に「可愛い」と言われたら、精一杯の自己アピールをしろと先輩から教わっている。安らかな終焉を迎えるために、可愛くアピールをしろと。
先輩とは、つい最近まで同居犬だったシュナウザーのゲンさんだ。彼は訳あって里親探しをしていたけれど、めでたく二日前に優しそうな夫婦に引き取られた。
まだ子供であるボクには、終焉どうこうの難しい話は解らないけれど。きっと、苦難を乗り越えた先輩の教えは聴いた方が良い。
「ワンワンワン!」
今だ!アピールのタイミングを逃すな!
「う~ん、仕方ない。もうしばらく巣ごもり生活が続きそうだしな。責任をもって世話をするんだぞ」
「ホント!?やったー!パパ大好き!」
これは大成功か?ゲンさん、ボクもやりましたよ!
手を叩いて歓喜する女の子を見ていると、不思議とボクも嬉しくなる。全力で尻尾を振り、狭いゲージの中を駆け回る。
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